【第19回】東京都足立区「岡田屋」~「珈琲 愛花夢(あいかむ)」

東京都足立区六町(ろくちょう)。

つくばエクスプレスで秋葉原からたったの6駅。地下から地上に出た六町駅の眼の前には東京都道102号平方東京線が走っていた。他には特に目立ったものはないのどかな雰囲気が広がっている。
事前に調べたところによると、このあたりは荒地を開墾して農耕地にしていった地域だそうで、近くを流れる綾瀬川を開削し農作物や下肥を船運することで徐々に人が増えていったようだ。そして2005年につくばエクスプレスが開業すると大規模な区画整理が行われ住宅地が急増、人口世帯数もぐんぐん増えていった。秋葉原駅からわずか15分とあっという間に到着したし、住むには意外な穴場なのかもしれない。

今日の目的地は公園の脇にある小さな駄菓子屋さん。
実はこの駄菓子屋さん、最初は店名が不明だった。とあるブログで写真だけが掲載されているの発見し、その数枚の写真から公園名を割り出しGoogleマップで調べて見つけ出したお店だ。所在地の特定ができたので、それを手がかりに「岡田屋」という店名もわかった。しかし、どうやらGoogleマップにはお店としてはいまだに登録されていないようだ。
ストリートビューで過去の写真を遡って見てみると、お店の佇まいはほとんど変わっておらず、店頭に置かれたゲーム機は微妙に変化しているのが見てとれた。特に縁もゆかりもないお店だが写真を並べて順番に見ていくと、なんだか胸が一杯になって鼻の奥がツーンとしてきた。歳を取ると謎に涙もろくなる。こみ上げてくるノスタルジーを抑え難く、早起きしてここまでやって来てしまった。

住宅街を歩いていくとストリートビューで見覚えのある公園が現れた。あの角を曲がれば岡田屋が見えるはずだ。はやる気持ちに自然と早足になる。あれ? 閉まって……る?
駄菓子屋の営業時間はだいたいがバラバラで気まぐれだ。多くのお店は午後から、なんなら子どもたちの活動が活発な15時くらいから営業を開始するお店も少なくない。岡田屋もそのパターンか。

岡田屋の外観その1です

現在時刻は午前11半すぎ。気が急いて早く来すぎたかと落胆するも、明らかにこちらのミスだ。一応なんとなくの予感はあったので、予定を変更しもう一軒の目的地を先にしようと気持ちを切り替えた。
再び駅方向に向かってしばらく歩いてから、ふと“土曜休業”という可能性が脳裏をかすめ、はっと振り返るがそれすらわかろうはずもない。
代案となる目的地は、ここから六町駅を挟んで正反対側に位置する。ここは東京都の北東外縁部にあたり、数百メートルも歩けばもうそこは埼玉県八潮市となるエリアだ。足立区を縦断するように走る綾瀬川が急な弧を描く南花畑あたりがちょうど県境となっている。綾瀬川はそこから垳川へと繋がっていくラインと、水門に挟まれた花畑運河で中川へと至るラインが集中していて、水辺ファンには見どころが多い。個人的には地図で見ているだけでワクワクするところだが、今日の目的とは違うので無念のスルー。

愛花夢の外観です

ほどなくしてやってきたのは南花畑3丁目にある喫茶店、愛花夢(あいかむ)。
外観はちょっとレトロな雰囲気。扉を開けて中に入ると、天井下に格子梁がかかったなかなか豪華な作りが目に飛び込んでくる。ぐるりと見渡して右の方にテーブル筐体が見えたので、空席であることを確認してからそこに腰を下ろす。ちょうどお昼時ということで、食事目的のお客さんで賑わっていた。テーブル筐体席が空いてるとは運がいい、と思ったが普通のお客さんからしたらここはハズレの席なのかも。メニューを穴が開くほど見つめてじっくりと検討し注文を済ませると、お冷やを一口飲みほっと一息つく。

テーブル筐体のコンパネ部です

眼の前にあるテーブル筐体は麻雀コンパネが付いたもの。ただし、ボタンだけが丸ごと取り除かれた状態で太いセロテープがべったりと貼り付けられた無惨な姿。インストカードもなし。1P側を覗いてみると、こちらは年季の入った麻雀コンパネが付いていた。しかしこの様子ではもう稼働はしていないと思われた。

テーブル筐体の写真です

そして隣の席にも一台テーブル筐体が。自分の座った台より少し新しい印象があるのは、麻雀コンパネがお馴染みのカラフルなものだからだろうか。『麻雀 世界の神秘』(ダイナックス/1994)のインストカードも見える。ただ、2P側の椅子が足を差し込む余裕がないほどにぴったりくっつけて配置されているのが気になる。

あちこちを観察していると注文した「自家製2種類のカレーライス ハーフ&ハーフ」が運ばれてきた。こちらの喫茶店はフードメニューが充実しており、土曜日限定の生姜焼きセットも捨てがたかったが、かなり自信のあるとお見受けした自家製カレーに挑んでみたのだ。

カレーライスの写真です

スパイシーキーマカレーとビーフカレーの合掛けで、見た目ですでに美味しそう。早速いただいてみると、キーマの方は名前の通りピリッとスパイシーで、様々な香辛料の風味も感じる本格派。もう一方のビーフカレーもよく煮込まれた複雑な味わいにしっかり存在感を発揮する牛肉が嬉しい。喫茶店のこだわりメニューは、専門店のそれよりも遭遇した時の嬉しさが大きい気がする。言い方は悪いが、こんなところでこんな旨いものにありつけるとは! という役が一翻乗っかるからだろう。
これはいいランチに巡り会えたと夢中でパクついていると、お店の人が隣のテーブル筐体の2P側の椅子をぐいと後ろに引き、少し通路にはみ出させながらも新規のお客さんを案内した。対面で座った2人の熟年夫婦は、狭い上にコンパネが出っ張ってさらに窮屈になっている席にやや困惑した様子。ランチくらいはゆったりした席で食べたいよねと内心同情しつつも、むしろ進んでこの席に座った自分はやはり変わり者なのだと気付かされる。
ふと見上げれば店内はいつのまにか満席。食後にのんびりという雰囲気でもなくなってきたので、ランチコーヒーをぐいと飲み干し、お会計をしてお店を後にした。

時刻は13時を回っている。さて、「岡田屋」は開いているだろうか。
祈るような気持ちで歩いていくと先程の公園が見えてきた。さらに子どもたちの元気な声も聞こえてくるが……おお、やってる!

岡田屋の外観その2です

岡田屋の店頭に置かれたゲーム機は先程までかけられていたカバーを外し、その前で小学生の男子たちが夢中になってプレイしていた。いや、よく見るとゲーム機の布製カバーをすっぽり被るような状態でプレイしている子もいる。初めて見るスタイルだ。

ゲーム機の写真その1です

そのプレイスタイルだとゲームタイトルが確認できないのでしばらく待ってみたが、入れ替わり立ち替わりでゲーム機が空かない。ここは先に駄菓子を買っておくかと店内に足を踏み入れてみるとこれがなかなかに狭い。ここも長居はできそうにないなと判断し、目に付いた駄菓子を手当たり次第にカゴに放り込みお会計をお願いした。その際に少しお店のことを聞いてみたら、岡田屋は1977年に創業したそう。なるほど年季が入っている。ゲームを途中から導入してみたら子どもたちにバカウケしたそうで、少しづつ機種を変えながら現在までやってきたのだそうだ。やはりいつの時代も、子供は駄菓子屋とゲームが大好きなのだ。
お礼を言って外に出てみると、さっきまでいた子どもたちはいつのまにか公園で走り回っていた。羨ましいほどにフットワークが軽い。
さて、10円ゲームのカーレースの隣のゲームは、とカバーを上げてみると、『パラパラダイビング』『とんとん』が姿を表した。

ゲーム機の写真その1です

『とんとん』(1987)は、『コットン』(1991)『サイヴァリア』(2000)などで知られるゲーム開発会社、サクセスの最初期のヒット作だ。駄菓子屋などに向けて開発された、テレビ画面を搭載した史上初のキッズメダル機とも言われている。『パラパラダイビング』(1989)も同様にサクセス製のキッズメダル機。この2台が並ぶ駄菓子屋さんもいまや相当レアと言っていいだろう。
そして、なるほど。午後の太陽はちょうど画面に陽が差し込む配置となっておりうっすらとしか見えない。あのカバーすっぽりスタイルは、子どもたちの工夫によって編み出された岡田屋ならではの技だったのだ。

岡田屋の外観その2です

入口を挟んで反対側に置かれていたゲーム機はご存知『ジャンケンマンフィーバー』(サンワイズ/1987)。そしてもう一台は『PLAY TURBO PK』(Boram/1992)だ。脱衣こそないがゴリゴリのポーカー機なので駄菓子屋店頭にはあまり向いてないと思うのだが……。
ふとこのラインナップに既視感を覚え、過去の写真を探ってみると、浦安市の駄菓子屋店頭に『ジャンケンマンフィーバー』『ぴょんぴょん』『ニューとん』、そして『PLAYTURBO PK SPECIAL』と、ここと瓜二つのゲーム機が置かれていることに気づいた(※下写真参照)。よくよく写真を検証するとボタン周りやコイン投入口に貼られたテプラやゲーム機を覆う布カバーまで同じだ。おそらくは同じ納品業者なのだろう。他の駄菓子屋でもこのラインナップを組んでいるということは、案外実績がある黄金打線なのかもしれない。知らんけど。

ゲーム機の写真です

公園の柵に腰を下ろし、子どもたちがワイワイとゲームをしている様子をぼんやりと眺めていると、親子連れなどが続々と増えてきたためそそくさと退散することに。二世代三世代に渡って愛されている駄菓子屋は、やはり地域に一店は必要だと改めて感じる。

せっかくここまで来たので、ここらへんでまだ行っていない銭湯を探してみたら、綾瀬にあるめぐみ湯がよさそうだったので歩いて行ってみることにした。この辺は大きいのから小さいのまで非常にたくさんの公園がある。そしてどこの公園でも必ずと言っていいくらい子供連れの家族を見かけた。やはりファミリーで住むにはいいところなんだろうな。

めぐみ湯は正面から見るとシンメトリックが美しいどっしりとした宮造りの銭湯。建物は古いが、脱衣所も浴室も清潔で古さを感じさせない。下町らしいややアツの気持ちいいお湯にどっぷりと浸かって散歩の汗を流し、この日の散歩を締めくくった。
その後しばらくして、めぐみ湯の閉店が発表され、今年の1月いっぱいで営業を終えた。寂しいことにまたひとつ、思い出の中だけに存在するお店が増えてしまった。

めぐみ湯の外観です

 

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著者紹介
さらだばーむ

目も当てられないほど下手なくせにずっとゲーム好き。
休日になるとブラブラと放浪する癖があり、その道すがらゲームに出会うと異様に興奮する。
本業は、吹けば飛ぶよな枯れすすき編集者、時々ライター。

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