【第18回】神奈川県藤沢市「オーヌキ商店」「喫茶ジュリアン」など

神奈川県藤沢市。

ガタン! プシューという音が聞こえた、気がした。周囲を人が動く気配? あれ、なにしてるんだっけ。さっきまでとは違うざわめきが次第に大きく耳をくすぐる。深いところにあった意識は急速に浮上し、ハッと目を開け覚醒した。
すでに小田急江ノ島線の藤沢駅に到着していた電車をボンヤリと降りた。まだ寝ぼけているからか少しふらついているのがわかるが、なんとなく恥ずかしさを隠すため平然としたていで階段を下る。駅舎を出て見上げると真っ青な空にお日様がさんさんと降りそそぐ、まさにお散歩日和。

藤沢駅前です

藤沢駅は、スイッチバックで発車する小田急江ノ島線と、始発終着駅である江ノ電・藤沢駅が南口側に位置するため、どちらかといえば南口の方が栄えている。
今日はその反対側である北口方面を主に探訪することにしていた。実はこちら側はほとんど足を踏み入れたことがないエリアで、知らない場所に行くのが大好きな私としては楽しみにしていたのだ。

時刻は13時前なので、まずはランチをしてからブラブラすることにしよう。「散歩の良し悪しはメシとフロで決まる」がモットーの私としては、まずここがキマるかどうかが全体の満足度に大きく関わってくる。
だいたいは事前に候補のお店をいくつかピックアップしておき、体調、欲求、気温と気候、そしてその日の気分で最終決定するのが流れなのだが、今日はもう間違いない。足どりも軽く向かったのは、北口のカレーショップ・シュクリアだ。
こちらのカレーは普通盛、中盛、大盛りと揃っており、さらに辛さも0から70まで選ぶことができる。実際は70以上も可能らしいが、そもそもそんなに辛いものに強くはないのでおとなしく辛さ5にしておく。トッピングはポークカツと目玉焼きにして大盛いっちゃおう。

今日は藤沢駅周辺にすっぽり収まるコンパクトな散歩コースを予定している。この連載を始めてからというもの、ブラブラしながらもこれをコラムにしたらどの程度の文量になるかをなんとなく考えるようになった。そこで出会ったモノや出来事をどういうふうに表現するか、流れは前後を入れ替えた方がいいかな、いやそもそもこれネタになるのか? などボンヤリ歩きながら頭の片隅で構成を練り始めてしまうのだ。実際のところ、このコラムを仕事とは捉えていないのだが、仮にも人様に読んでいただく文章として出力することを考えると頭カラッポのままでうろついてもいられない。そういう意味では散歩としての純粋性は失われてしまっているのかもしれないが、それでも多少は意義があった方が張りあいにもなっているのだろう。
まぁ、今日のコースは小粒だが、今後はこういう小ネタをどうにかしていかないといずれ行き詰まるという危機感もあり、サラッと流して読みやすいコラムに仕上げるテストとしてみることにしよう。うん、そうしよう。

まだ始まってもいない散歩の前に己の心を納得させることに成功し、ひとり神妙に頷うなずく男の前に注文のカレーがやってきた。

カレーライスの写真その1ですカレーライスの写真その2です

こんもりとしたライスにややシャバのカレーソース。半熟を予感させる目玉焼きの黄色と白の照り具合が鮮やかだ。ポークカツは別皿で提供するスタイル。もし目玉焼きの上にカツを乗せたら黄身が割れてしまうかもしれない。目玉焼きの下にカツを入れたら高すぎてスプーンを使いにくくなる。かといってカレーソースにカツを投入するのは論外だ。そうした試行錯誤を繰り返した結果、別皿での提供となったのだろう。カツだけを皿に置いて運ぶと、コロモの油で滑りやすくまた見た目にもちょっと寂しい。そこでカツにも少しカレーをかけ摩擦を軽減するとともに、サービスとしても一段上げてきている。
目にも美しいこのプレゼンをたっぷり堪能してから食べ始めると、これがスタンドカレーの王道を行く美味さ。卓上にある玉ねぎとキャベツのアチャールを入れてもこれまた美味い。カウンターのみの小さなカレー店だが人気があるのも納得だ。あっという間に完食し、大満足でお店を後にした。

北に歩いていくと、やがて境川が見えてきた。橋を渡ってから急に坂がきつくなる。まさに境川を境として北東側は三浦丘陵、あるいは高座台地と呼ばれる地形に連なり勾配が上がっていく。ヒイコラ言いながら上がったり下がったりしていくと、高台に団地群が見えてきた。その市営住宅の下にある小さな商店が今日の目的地だ。

オーヌキ商店の外観です

オーヌキ商店の見た目は、古きよき団地下商店そのもの。庇がアーケードのように長く続いており、かつてはもう何店舗かあったことを感じさせる。そしてその庇部分には「広場のルール」「敬老の精神」「子供の買い物道場」と書かれている。言わんとしていることはよくわかるが、こうもストレートに掲げられているのはなんとも新鮮だ。特に「敬老の精神」は、誰が誰に言っているのか少し勘ぐってしまう。

そして店頭にある駄菓子屋御用達ミニアップライト筐体には『エルドラド』(DYNA/1991)なる8ラインスロット。脱衣こそないもののバリバリのギャンブル系ゲームであり、いささか場違いといった気もする。その隣は『ほるとるボンバー』(TAKUMI/2000)で、こちらはキャラクターも可愛いキッズメダル機。

ゲーム筐体の写真です

 さらに『筋肉番付ストラックアウト』(コナミ/2001)、10円ゲームの『カーレース』、『かめさんうさぎさん』(こまや)といい感じに使い込まれたゲーム機がズラリ。入り口横をよく見れば、故障したと思われる『ジャンケンマン ジャックポット』(サンワイズ/1991)がすっかり錆びて仕舞いこまれていた。

ゲーム筐体の写真その2ですジャンケンマンの写真です

しばらくすると、あちらこちらから子どもたちがやってきて、周囲はすっかり賑やかに。団地の商店は子どもたちの社交場であり、標語のとおりの買い物道場なのだ。やっぱり団地には子供がよく似合うな、と目の前を行ったり来たりする子どもたちを眺めながら缶コーヒーで一休みしたところで次なる目的地へ向かおう。
駅前まで戻るのに、いま来た道を引き返すのは芸がないなと少し大回りして別の橋で境川を渡る。線路を跨いで南口の商店街に来てみると、やはり少し人が多いように感じる。

藤沢駅南口を出てすぐ東側にあるフジサワ名店ビルとダイヤモンドビル、藤沢プライムビルで構成される一角、通称“391街区”は、藤沢でも指折りの渋さを誇る建物群だ。1960年代には屋上観覧車も稼働し、80年代には300台以上が稼働する大きなゲームセンターもあったという。
現在、フジサワ名店ビルの1階にキッズメダルを中心とした小さなゲームコーナーがあるだけだ。しかし、キッズライドの「しょうぼうしゃ」は往時を偲ばせるいい味わいを醸し出している。

ゲーム機の写真ですキッズライド機の写真です

そして、50年以上の歴史を持つこの391街区は、2025年に閉店解体されることが発表されている。ぜひ今のうちに訪れてこの渋みを体感してほしい。

コンパクトにまとまったちょうどいい散歩ではあったが、高低差もあり思ったよりも足の疲労を感じる。いままさに銭湯の頃合いだ。藤沢駅北口から少し歩いたところにある銭湯、冨士見湯。夕方の一番混雑する時間は湯船もサウナも大賑わいだ。タイル画はもちろん富士山……ではなく、西洋を思わせるお城や山々。随所にモダンさを醸し出している明るく清潔な銭湯で存分に疲れた足を癒す。

冨士見湯の外観です

さて、湯上がりですっかりぐにゃぐにゃになったあとは喫茶店で小休止。北口にある喫茶ジュリアンは、テーブル筐体が置かれた純喫茶としてその筋では有名だ。
実は私が“テーブル筐体喫茶”を巡ることにしたきっかけのお店でもあるのだ。ただなんとなくふらりと入ったこの喫茶店で、久しぶりに「喫茶店にあるテーブル筐体」と遭遇したことから、世の中には他にもまだテーブル筐体を使っているお店が残っているんじゃなかろうか、といろいろ調べだしたのがそもそものはじまりだ。
久しぶりに来たジュリアンは、以前と位置もまったく変わらぬテーブル筐体が迎えてくれた。注文はお店名物のペアソーダでキマリ。グラスが真ん中で仕切られており苺味とメロン味のふたつの味が楽しめる目にも楽しいクリームソーダだ。赤側にはホイップクリーム、緑側にはアイスクリームと乗せられたトッピングが異なる芸の細かさがニクい。

テーブル筐体の写真その1です

居心地の良さにゆったりと長居をしてしまったが、暗くなる前に引き上げることにしよう。帰り支度をしてお金を払い、挨拶をしてから外に出る。ふとなんとなく振り返ったら、窓からテーブル筐体がちらりとこちらを見ていた。近いうちにまた来ようと思った。

テーブル筐体の写真その2です

 

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著者紹介
さらだばーむ

目も当てられないほど下手なくせにずっとゲーム好き。
休日になるとブラブラと放浪する癖があり、その道すがらゲームに出会うと異様に興奮する。
本業は、吹けば飛ぶよな枯れすすき編集者、時々ライター。

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