【第16回】新潟県三条市「イリスボウル」~新潟県燕市「純喫茶ロンドン」

新潟県三条市。

新幹線の車窓から見えるのはうっすら積もった雪と見事なまでの曇天。スッキリと晴れ上がった青空ではなくドンヨリと重苦しい曇り空、という個人的な新潟イメージを体現するかのような風景が広がっていた。

三条市の風景です

実は燕三条駅のホームに降りるのはこの日が初めてだ。実家に帰るには終点の新潟駅で下車するためこれまで途中下車する理由がなかったのだ。
今回、年末の帰省を考えていた時に、新潟県内のゲーム場をブラリとしてみるのもいいのではないかと思いついた。早速行ってみたいお店をメモしてあるGoogleMapを開き検討してみたところ、新幹線のルート上にあり、まだ未訪店がポツポツとある三条市あたりがよさそうだという結論に至った。

改札を抜け駅前に出ると、残雪はあるが道路に雪は積もっていなかった。今回の計画はかなり歩くため、もし雪が積もっていたら相当の困難になるぞと予想していた。そのため関東ではまず使用する機会がないスノーブーツまで購入した。さらに厚手の靴下を履き、万全の態勢で来てみればなんともきれいな空振りに終わった。八つ当たりで残雪をゲシゲシと踏みしめながら、まぁ積もってないにこしたことはないかと思い直す。

燕三条駅の外観です

気温は少し寒いが、12月30日にしては暖かいほうだろう。実家への帰省は毎年12月31日と決めているのだが、今回は1日前倒しの30日にした。なぜなら31日になるとほとんどのお店が休業に入ってしまうからだ。この当たり前の事実にこれまで数多のお店に訪問を阻まれてきたため、ならば今年こそは…! と鼻息を荒くしてやってきたのだ。
やや雨が混じる中、燕三条駅から歩くこと20分ほど。建物の中に入ると「カコーン!」という大きな音とそれに続いて歓声が聞こえてきた。到着したのは、信濃川の分流である中ノ口川のほとりにあるボウリング場だ。

イリスボウルの外観です

日本にボウリングブームが起きたのは1970年代前半。そのブームは80年代に入ると一気に沈静化し、コンピューターによる自動スコア化が進んだ90年代になるとまた少し盛り返した。インベーダーブームが1978年なので、第一次ボウリングブームの最後期と少し被っている。インベーダーは文字通り街のあらゆるスペースを侵略し、ボウリング場の一角もその例外ではなかった。私と同世代には「ボウリング場=ゲームセンター」だったという経験を持つ人も多いはずだ。
この出来事を時系列だけで分析すると、ボウリングブームの衰退は娯楽業界でライバル関係にあったボウリングとビデオゲームの対立の結果のようにも見える。新たな娯楽として登場したビデオゲーム、その尖兵とでも言うべき『スペースインベーダー』がボウリングを衰退へと追いやった一因ととれなくもない。
だが2024年現在、その両者共が立場的には“枯れた”状況にある。時代は常に新しさを求め、流行りはいずれ収束に向かうのは仕方のないことだ。その状況に逆転の商機を見出したのがここ、「イリスボウル」だ。
ちなみにこちらのイリスボウルは、コロナ禍の2021年に閉業してしまったボウリング場の跡地に、新たに2022年にオープンしたばかりの新しいボウリング場だ。

ズラリと並ぶボウリングレーンの後方の一角、いや一角というには広いスペースには、23台ものテーブル筐体が設置されている(2023年12月訪問時)。しかもその全てがプレイアブル。関東にもボウリング場は多数あるが、ビデオゲームが置かれた店舗は少ない。あっても『太鼓の達人』『マリオカート』『ワニワニパニック』というゲームコーナー三種の神器くらいで、正直なんとなくスペースが空いてるから置いてます程度の扱いだ。

イリスボウルのゲームエリアです

こちらで稼働しているのは、『ゼビウス』(ナムコ/1983)『ファンタジーゾーン』(セガ/1986)『グラディウスⅡ』(コナミ/1988)『ストリートファイターⅡダッシュ』(カプコン/1992)『バーチャファイター2』(セガ/1994)といった時代を席巻したビッグタイトルや、『ジャンプバグ』(セガ/1981)『スプラッターハウス』(ナムコ/1988)『スクランブルフォーメーション』(タイトー/1986)など通好みのタイトル。さらには『テトリス』(セガ/1988)『名人戦』(SNK/1986)『ワールドスタジアム’90激闘版!』(ナムコ/1990)など、ゲームへの興味が薄い層への訴求も忘れていない。
そして一番奥にはもう目玉と言ってもいいだろう、『沙羅曼蛇』(コナミ/1986)と『ライフフォース』(コナミ/1987)が並んでいる。しかも卓上にはステレオスピーカーを配し、プレイヤーに向かってそのファンタスティックミュージックとサウンドを浴びせかけてくるゴキゲン仕様だ。

沙羅曼蛇のテーブル筐体です

まったく隙がないこれらラインナップを眺め、明らかなオーバーリアクションで挙動がおかしくなっている怪しげなおっさんを見かねたのか、ボウリング場の店員さんが「いま、電源入れますね~」と声をかけてくれた。実は自分が入店した時点ではまだ電源は入っていなかったのだ。一斉電源をONにすることで、“ブンッ”と静かに全基板の鼓動が脈打ちはじめる。その瞬間を味わうことでしか得られない歓喜が全身を貫いた。うむ、今日は早起きして来て本当によかった……。

イリスボウルのゲームエリアその2です

とりあえず100円玉を投入しまくり片っ端から遊んでみる。どの台もモニターの具合がよく、レバーとボタンのメンテナンスもバッチリ。テーブル筐体の弱点である天井照明の反射光を防ぐためにダンボールを置き、ときおりボールがピンを豪快に倒す音を聞きながら『スペースインベーダー』をプレイしていると、そこはもう“1979年のボウリング場”そのものだった。
かつて共に肩を並べて客を熱狂させ、後に娯楽の覇権を争った両者が、令和の新潟県三条市で再びタッグを組んでいる。紆余曲折あり袂を分かったが、元々は相性の良かった同士が奏でる最高のサウンドを聞きながら、ファンは再結成の喜びに震えダンボールの影でそっと涙するのだった。

イリスボウルのゲームエリアその3です

たっぷりゲームを堪能し、電源を入れてくれた店員さんにお礼を伝えてからイリスボウルを後にする。
次はここから歩いて中ノ口川を越え少し西へと進む。時刻は昼12時の少し前で、曇り空の隙間から陽が差し込み始めていた。それに伴って気温も上がり始めたのと、先程の興奮の余韻がまだ残っているからかダウンジャケットだと軽く汗ばむくらいだ。こうなると川岸の風も心地よく、季節外れの散歩日和といった具合になってきた。

純喫茶ロンドンの外観です

20分ほど歩き、JR弥彦線・燕駅からほど近い「純喫茶ロンドン」に到着する。こちらは新潟県のみならず全国的にも知られた喫茶店だ。どの角度から見てもシブい外観の佇まいを存分に堪能してから入店すると、やや薄暗い店内は昭和をそのままパックしたような雰囲気。腰を下ろした入口近くの席は『ギャラガ’88』(ナムコ/1987)が入ったテーブル筐体だ。店の奥には『スペースインベーダーDX』(タイトー/1994)と麻雀コンパネの台も1台ずつあるようだ。

テーブル筐体の写真です

まずは注文を済ませてから、改めてテーブル筐体へと向き合う。薄暗い中でモニタを見るとぼやっと浮き上がるような感覚が味わえる。先程のイリスボウルでの広く明るく賑やかな空間と、ロンドンの暗く静かな幻想的空間とでは受ける印象が全然異なるのだ。こうしたプレイ環境による印象の違いもビデオゲームの魅力のひとつといえる。
先に給されたコーヒーを啜りつつまずはワンプレイしてみよう。『ギャラガ’88』の敵ギャラガ軍は円を描いて編隊攻撃を仕掛けてくるが、薄暗い中でそれを追いかけ回していると次第にぐぐっとゲームに没入していくのがわかる。ギャラクティックダンシングではトリッキーな動きに翻弄され、トリプルファイターにすべきかどうか迷っているうちに手痛い攻撃を受け、すぐに孤独なシングルファイターでの戦いを余儀なくされた。粘りに粘るがボスまで行くことは出来ずゲームオーバーに。
するとちょうど注文したツナクリームスパゲディがやってきた。あまりにタイミングがよすぎて、ひょっとしたらゲームオーバーまで待っててくれてたのかも、と思ったくらいだ。

パスタとコーヒーの写真です

スパゲティに舌鼓を打ち、食後のコーヒーでしばし一服。
三条市のゲーム歩きはここまで完璧と言っていい。そもそも、なぜこのエリアに私の求めるレトロゲームの置かれたお店が多いのか。実はれっきとした理由がある。
それは「全日本テーブル筐体愛好会」という名称の団体が、ここ三条市を拠点としているからに他ならない。
全日本テーブル筐体愛好会は、三条市で開催されたイベントにゲーム機の貸出提供を行ったことからボランティア団体として発足。のちに同好の士が次々と集まっていき、いつのまにか全国規模の組織にまで成長したという。
会長を務めるヒジヤン氏(@hijiyan_jp)は、個人でゲームをコレクションしながら、団体として地元三条市での繋がりを広げ、イリスボウルのゲームコーナーや、純喫茶ロンドンに自前のテーブル筐体を設置するなどして、地域の活性化に一役買っている。
この2箇所のほかにも、東三条駅の近くにある駄菓子屋のように子どもたちが集う空間「三条ベース」や、NPO法人が主催する「つばめベース」という遊び場、さらには雑貨店や喫茶店などにもミニアップライト筐体やテーブル筐体を提供したり、自身がコミュニティFMラジオ番組に出演するなど精力的に活動している。
過疎化、高齢化などで地方都市の力が失われつつある現在、その地域ならでは特長を活用して推進する手法はうまく機能すれば、アニメによる聖地化のように十分な町おこしの力を持ちうる。燕市・三条市は金属加工製品で知られるものづくりの都市でもあるから、ゲームという工業製品とは相性もいいのかもしれない。

いろんなところにゲームが置かれていて、それを目当てにお客さんが訪れてワイワイと賑やかになっていくような町ができたらすごく面白いだろうな、などとぼんやり考えながら、なかなかに寂れた燕駅までの道を歩いていった。

燕市の風景です

 

過去の記事はこちら

さらだばーむ ゲームある紀行

 

BEEPの他の記事一覧はこちら

BEEP 読みものページ
VEEP EXTRAマガジン

BEEP ブログ

よろしければシェアお願いします!

PAGE TOP