石川県金沢市瓢箪町。
藤江にあるバイパスレジャランをたっぷり堪能し、次なる行き先を検討しようと一旦喫茶店で作戦会議をすることに。
駅の東側、金沢城の方面へ向かう。
こちら側は武家屋敷跡や茶屋街など雅な景色が楽しめる、観光客なら必ず訪れるエリアだ。観光にはあまり興味のない私でも、ひと目くらいは見ておきたいと思うような場所なのだが、あいにくのんびりもしていられない。せめて車窓からそれっぽい風景を目に焼きつけておく。
ほどなくして着いたのは、浅野川のほとりにある『こーひー屋 さいふぉん』だ。
錆びたトタン貼りの壁に、青い塩ビの看板テント。こちらも錆びて味のある電飾看板には“ダートコーヒー”という聞いたことのないブランド名が(あとで調べたら金沢市に本社があり北陸から京都まで支店を持つコーヒー商社でした)。
店の周囲を彩る鮮やかな鉢植えの草花も可愛らしい。
うん。古都・金沢にふさわしい、いい佇まいの純喫茶じゃないか。
店内入ってすぐに小さなテーブル席とカウンター席がある。照明を少し落としてあり、落ち着いた雰囲気を醸し出している。奥には小部屋のような空間があったので、ひと声かけてからそこに陣取ることにした。
早速メニューをチェック。コーヒー、紅茶、ココア、こぶ茶がいずれも400円から550円ほどとお手頃な価格帯。お、軽食のカレーライスとか焼きうどんもよさそうだ。今日は少し気温が高めだしアイスコーヒーにしようか。
壁に貼られた古い写真や映画ポスターなどを興味深くキョロキョロと眺めていると、お店のマダムがいろいろと解説してくれた。洋画に出演した往年の名女優たちがお好きなようで、棚からマリリンモンローの切手コレクションなどを出してきては熱弁をふるうのを聞きつつ、さりげなく眼の前にあるゲーム機について水を向けてみる。
小部屋内にはテーブル筐体が2台あり、いずれも麻雀ゲーム。そのうち1台は、2個モニタが付いているタイプだ。
このタイプのテーブル筐体は喫茶店などでたまに見かける。
たとえば友人同士で別々の麻雀ゲームをプレイするのであればいいのかもしれないが、見知らぬ同士が相席でプレイするには近すぎてなんだか少し気まずそうに思える。どちらかといえば、4人掛けの長テーブルとして普通に使用する方が勝手はよさそうだし、一体どんな用途を想定して作られたテーブル筐体なのだろう。
「やってみる?」というマダムのお言葉に甘えて、電源を入れてもらうことに。
片方のモニタは故障しているようだが、もう一方には『麻雀ディプロマット』(ダイナックス/1987)が映し出された。
『さいふぉん』が開店したのが1986年だそうなので、その翌年に発売された脱衣麻雀ゲームということになる。
1983年に日本物産がリリースした「ジャンゴウナイト」に端を発する業務用脱衣麻雀ゲームは、業界に一大ムーブメントを巻き起こし大きなうねりとなったのち、2000年代に入ると新規のタイトルが急激にその数を減らしていった。
現在、ゲームセンターで稼働するこうした旧作は、かつての隆盛期に比すれば取るに足らないほどになってしまっている。健全娯楽の名の下に排除され続け、業務用オンライン麻雀ゲームの出現がとどめを刺した格好だ。
個人的にはもうひとつ。一時市場を席巻した画面に登場するアニメ系の女の子が、麻雀ゲーム本来のメインターゲットであるフツーのおっさんの嗜好にそぐわなかったこともあるのではないかと思っている。エロ劇画がロリコン漫画に駆逐され、よりオタク向けに進化していった結果、一般のおっさんが離れていった現象と似ている。
そこに脱衣のない純粋なゲームとしてのオンライン4人対戦麻雀が登場したことで、実は“脱衣というご褒美”が蛇足であることが露呈してしまった。コンプライアンス強化、ハラスメント意識の高まりなども相まってコンピューター脱衣麻雀は過去の遺物となりつつある。
そんな事情を踏まえれば、今世最後まで脱衣麻雀が残るのは時勢に左右されることのないユートピア“純喫茶”なのか……と思えども、それとて経営者の高齢化、後継者不在によりいずれ倒れゆく運命から逃れることは出来そうもない。
「お金入れないと遊べないからコレ使ってね」と優しいマダムが置いていった100円玉を見つめながら、そんなことをぐるぐると考えアイスコーヒーをズズズと啜った。
今日はたまたま他にお客さんがいないタイミングで訪れたが、きっとこの『麻雀ディプロマット』ともう1台の方に入ってる『麻雀 雷神牌』(ダイナックス/1995)にも常連のファンがいるに違いない。マダムと楽しくおしゃべりをして、麻雀ゲームを数プレイして帰る。そんな老後が私の理想なのかもしれない。
さて、笑顔が素敵なマダムに見送られ、次なる目的地に向けてクルマは一路、北陸自動車道を富山県へ目指す。
富山県高岡市。
県庁所在地である富山市に次ぐ富山県第二の都市で、銅器、漆器、仏壇といった伝統工芸が有名。漫画家、藤子・F・不二雄の出身地としても知られ、「まんが道」で主人公2人が闘志を燃やす場面で象徴的に描かれる高岡大仏がある……ほうほう、なるほど。
まぁ調べたところでどうせ行かないことはわかっているが、一回くらいは見ておきたいんだけどな。
国道156号線を北上する途中に次の目的地はあった。
外部壁面にデカデカと“24時間営業自動販売機”と書かれ、屋根の上には黄色い象の看板が鎮座する。ここが創業から40年以上を誇る『オートレストラン ぞうさん』だ。
昨今静かに盛り上がりを見せるレトロ自販機を有する店舗で、20年以上故障したままだったハンバーガー自販機が2025年に修理完了し、再び稼働を始めるやいなや話題となっていた。
店内敷地の半分は自動販売機とテーブルと椅子が置かれた休憩コーナー。もう半分がゲームコーナーとなっている。
アストロ、ブラスト、ニューネットといったセガ汎用シティ筐体には、『上海』(サンソフト/1988)『早指し将棋 五月陣戦2』(セタ/1994)『コラムス』(セガ/1990)『アイドル麻雀ファイナルロマンス4』(ビデオシステム/1998)といった、高インカムロングランタイトルがズラリ。さらに件のオンライン対戦麻雀最新バージョンである『麻雀格闘倶楽部 UNION』(コナミ/2025)が10台も配置されている点にも注目したい。
目ざとく『麻雀ファイトガール』を見つけたO氏は早速プレイを開始していた。
ひとことでいえば質実剛健なラインナップ。
おそらくはその時代ごとにしっかりターゲットの嗜好に合わせたタイトルを置き続けてきたことを感じさせる。2026年はこの形がベストという判断なのだろうが、あまりにソツがなさすぎるんだよなーと若干の違和感を感じながらぶらついてて、ふとPASELIチャージ機に目が止まった。
そこには注意書きとともに「㈱山崎屋」の文字が。
ははぁなるほど。そういうことか。
あちこちを見て廻っていると、休憩コーナーに座っていたおばあさんが「どこから来たの?」と話かけてきた。聞けばこの方がここのオーナーで、いまは娘さんとともにこの店を切り盛りしているのだそう。
ハンバーガーの自動販売機が復活したことで客足も増え、早くうどんそばの自動販売機も直したいのよーと嬉しそうな笑顔を見せる。生活水準の上昇とともに舌が肥え、見向きもされなくなった時代もあったが、自販機グルメならではの味わいが見直されはじめた昨今。いい時期もあれば、悪い時期もあったけどここでお客さんと話をしたりしながら過ごすのが好きなの、と屈託なく話す姿がやけに印象に残った。
オーナーさんオススメのハンバーガーをお土産代わりに購入。O氏は別の自販機で売っていた未組立のハンバーガーボックスもちゃっかりゲットしていた。
そういうのもあるのか!
入口の脇には一台だけポツンとテーブル筐体が。
動いていたのは『アルカノイド リベンジオブDOH』(タイトー/1987)だ。
あれ?
今朝の福井県『喫茶マミイ』にも非稼働だけどあったな。
ついさっきまでいた『バイパスレジャーランド 藤江本館』には、1作目の『アルカノイド』が稼働してたし、なんだかこの旅は“アルカノイド”と縁があるようだ。
そういえば、とても優しいおばあちゃんたちとも縁あっていっぱい出会えたなあ。
『いい店、いい人、いいゲーム』
居酒屋探訪家・太田和彦氏の言葉を借りれば、こういう出会いがある旅が私にとっての“いい旅”ってことなのかもしれない。
追記。
去る7月4日に、オートレストランぞうさんの屋根の上にあったぞうさんの看板が撤去されたそうです。代わりに真新しい看板の設置も完了して、まだまだ進化していきそうな予感。

▲オートレストランぞうさん 公式Xアカウント(@zousan_toyama)より引用
過去の記事はこちら
BEEPの他の記事一覧はこちら



















