埼玉県さいたま市緑区。
東京のド真ん中・四ツ谷駅から南北線に乗車すること45分、埼玉高速鉄道線へ乗り入れたドン突きにある浦和美園駅。
大宮でも東京駅から30分で着くというのに、45分もかかるここは埼玉のどこなのか。地図で確認すると、西側にずーっと行けばさいたま新都心。つまり大宮の辺りだ。東側に進むと越谷市にぶつかる。南に広がるのは川口市。「浦和美園」というからさいたま市浦和区かと思えばそうではなく、全然近くもないところも話をいっそうややこしくしている。
ここには連載第27回でも一度訪れている。この街のほぼすべてを賄っている巨大ショッピングモール、イオンモール浦和美園店にはゲームセンターがあり、そこにある『アウトラン2SPDX』(セガ/2007)をやりに行くという、本当にただそれだけの回だ。じゃあ今回は何しに来たかといえば『アウトラン2SPDX』をやりに来たのである。
説明しよう。
2024年6月に件のゲームセンター「宝島 浦和美園」は閉店。7月13日に「GIGOイオンモール浦和美園」として新たなスタートを切った。リニューアルに伴い、現場存続が危ぶまれていた『アウトラン2SPDX』はどうにか撤去されることなくお店の目玉(と思いたい)として残留が決定した。
それから約2年。2026年5月末にSNSでいくつかのマシンの稼働終了が告知された。終了リストには結構な台数の音楽ゲームが並び、地元音ゲーファンの落胆の声が聞こえてきたのだが、それにも増して衝撃が走ったのは『アウトラン2SPDX』が2台とも撤去となるというニュースだったのだ。
『アウトラン2SPDX』については第27回を読んでいただくとして、肝心なのはこのマシンが稼働しているロケーションは極めて少ないということだ。1台でもレアだが、2台並びはさらに希少。
聞けば、撤去される2台は別々のGiGOに引き取られていくらしい。バカでかくて場所をとる上に、猛烈にインカムを稼ぐタイプのゲームでもないのでやむを得ないのだが、このセッティングが見られるのは本当に最後かもしれない。そう思ったら居ても立ってもいられなくなってしまった。
できれば、当時一度やったきりの4人プレイをしておきたかったのだが、あいにくと付き合ってくれるほどにヒマを持て余した友人はひとりもいない。どうにか連れ出したとしても3人にメシくらい奢らなければならない手痛い出費となるだろう。それにどうやら2台による通信対戦機能はオフになっているようだし諦めるほかない。
エスカレーターを上り2階のGIGOに到着すると、マシン周辺にはどうも同じ目的で訪れたとおぼしき同士がチラホラいることに気づく。しかし「最後にワンプレイ、一緒にどうスか?」などと爽やかに声をかけて複数人プレイを満喫できるほど陽キャではない。それはたぶん先方も同様だろう。結局はひとりで何度かプレイしてしんみりと別れを惜しんだ。
黄色い筐体のFerrari Dino 246GTの方は画面にずっとエラーコードが表示され、動きもなんだか芳しくない。これからは新天地でがんばることになるのだし、まずは満身創痍の身体をいたわり不具合を直してもらってほしい。またどこかのロケーションで会おう!
イオンを出て、バスで越谷方面に行くために少し離れたバス停を目指す。事前に調べたところによるとここから越谷に行くバスは1日3本しか出ていない。14時のバスを逃したら今日はもうおしまいだ。1時間ほど歩けば着くのだがじわじわと暑くなりはじめたこの時期、もう散歩の旬も終わろうとしている。
バスに揺られること20分ほど。越谷駅の手前のバス停で下車し住宅街に入った。
本日第二の目的地、喫茶店『プラム』にはこれまで3回訪れている。
パッと見はあまり一見さんが入りやすい店構えではないが、近隣住民が常連となって50年に渡り支えてきた住宅街喫茶だ。気さくでおしゃべり好きなマスターのマシンガントークにすっかりハマり、越谷といえばここを思い出すくらいにまでなった。とはいえ、なかなか訪れる機会もなく、2年ほどご無沙汰してしまっていた。
実は少々不安なことがあった。
『アウトラン2SPDX』のラストランをしようと決めてからGoogleマップで『プラム』を確認したところ“臨時休業”というステータスになっていたからだ。確か今年前半に見た時は“営業中”だった。“閉業”となっていないということは、おそらくお店の扉になんらかの貼り紙がでている可能性がある。アウトランはもちろんだが、この機会にマスターのことも確認せねばなるまい。
お店が近づくにつれ、どうやらシャッターが下りているのがわかった。やはり営業していないのか。なんだか店頭がやけにスッキリしている感じがするけど……
店の前まで来てみると、シャッターは完全に下まで閉まりきっていない状態。横の勝手口が開いていたので中を覗き込んでみる。
もぬけのからだった。
モダンなランプシェードに囲まれ綺麗にアールを描いたレトロなカウンターも、「カルピコ」「初恋フィズ」「ライスカレー」などいまや他では見かけない昭和を感じる一品がびっしり書かれた印象的な壁のメニュー表も、そして4台あったテーブル筐体もすべてが姿を消していた。それどころか壁や床の内装が剥ぎ取られ、まるでこれから新たな内装が施されそうな有様になっていたのだ。

▲2021年撮影の『プラム』店内。カウンター内にいるのがマスター。
(いったいいつ閉店したのか)
(改装……にしては徹底的すぎる)
(……マスターはどうしたんだ)
あまりの衝撃に思考が停止し、なにをしたらいいかわからなくなっていた。辺りを見回しても誰もいない。ポストをのぞいたり、裏手に回ってみたりしたものの、まったく埒があかない。
こうなったらお隣さんに聞いてみるしかない。意を決してお隣の宅配デリ店のドアを開け、中にいた人に声をかけてみた。
親しくしていたわけではないので…と前置きをした上で、先月マスターが亡くなったことを教えてくれた。
もっとも考えたくない、そうであって欲しくない閉店理由だった。
お礼を言って外に出て『プラム』があった場所を呆然と見つめた。
お店をおいとまする時には毎回握手を交わし、外に出るとマスターも一緒に出てきて私を見送ってくれた。道を曲がるときに振り返るとマスターはまだこちらをニコニコと見ていてくれた。私にだけに特別そのようにしていたわけではなく、普段からお客さんに対してお見送りをしていたようだった。
たった3回しか会えなかったけど、人柄に魅了されまた会いに行きたいと思わせる、そんな素敵な人だった。本当に哀しい。
今日はもうゲームどころではない。
プラムにあったテーブル筐体がどうなったとか、そんなことどうでもいい。
それほどに落ち込んでいても、生来の貧乏性が「せっかくココまで来たんだから…」と耳元で囁く。くそう。近くにある『越谷バッティングセンター』だけでも覗いておくことにする。
プラムから歩いて15分ほど。日光通り沿いにある『越谷バッティングセンター』には珍しく誰もお客さんがいなかった。
『アームチャンプスⅡ』(ジャレコ/1992)、ナムコの『ノックダウン’90』(1990)『ノックダウン2001』(2001)といったバッセン定番の体力マシンや、『タイムクライシス2』(ナムコ/1998)、『スーパービッグベースボールボード』(アトラス/2008)など手堅いラインナップ。中でも目玉は『クイック&クラッシュ』(ナムコ/1999)だ。
正直まったくゲームをしたい気分ではなくなっていたが、ここに来てこれをやらずに帰るのも忍びない。財布から100円を取り出し、シューターに放り込む。
しかしゲームは始まらず、「故障だ! 近くにいる係員を呼んでくれ!」というけたたましいメッセージ音声を繰り返しはじめた。店員を呼びにいくと100円が返却され“故障中”の札が貼られて電源が落とされた。

▲タイム表示ディスプレイに“E007”というエラーコードが。
『アウトラン2SPDX』は失われ、予期せぬ訃報を知らされ、『クイック&クラッシュ』は故障する。なんて日だ。
いろいろなことが重なってさらに落ち込み、道もろくに確認せずにボンヤリうつむき加減で歩いていたら、南越谷駅に行くつもりが越谷駅に到着してしまった。
ホント、なんて日なんだ。
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