【第14回】千葉県千葉市「富士見横丁レトロ」

千葉県千葉市中央区。

自宅から約1時間半ほどかけて、JR千葉駅までやってきた。時刻は16時30分を少し回ったところだ。久しぶりに訪れた千葉駅周辺は再開発も一段落といった具合で、だいぶ景観が変わって見えた。ビックカメラが入った駅前の新しいデカいビルの下をくぐり、京成線千葉中央駅方面に向かって歩いていく。周囲を見回すとまだあちらこちらで建設中のビルが見えた。商業施設がひしめき合うこの東エリアの開発が終わったら、今度は西口側の再開発がはじまるというし、撤退した三越、パルコの跡の建設も進んでいる。千葉駅周辺は当分の間変化を続けることになりそうだ。

ライター仕事をしている友人が時折、書いた文章の校正をして欲しいというので、仕事ということではなく手伝っている。せいぜい2ページ分くらいの分量しかないテキストを合間を見てチェックしている程度なので、こちらは特になんとも思っていなかったのだが、友人は申し訳ないと感じていたのだろう。メシをごちそうするから、ということになった。その場所が千葉駅なのかよと思わないでもないが、タダメシとなるとホイホイ来てしまうのだから、我ながら意地汚い。

待ち合わせの場所は、妙見本宮千葉神社の近くにあるもつ焼きの名店、八角。
以前に一度来たことがあり、大ぶりでジューシーなもつ串の数々に衝撃を受けた。それ以来たまに思い出してはウットリするくらいだったので、今回行くお店が八角だと聞き、俄然やる気を漲らせてやってきたという次第だ。

八角の外観です

それほどに美味いお店なのですぐに満席となり、飲み屋の2回転目となると早くともその1時間後。つまり口開けを狙うのが最も確実ということで17時前にやってきたのだ。結局は友人が遅刻してきて17時半過ぎの入店となったが、どうにかカウンターの隅っこに席を得た。

焼き鳥の写真です
かしら、シロ、レバ、タンなどをタレでいただく串は、少し焦げ目を付けて香ばしく焼き上げた逸品。その部位特有の食感を存分に堪能でき、一口ごとに思わず天を仰ぐ美味さだ。そしてこの店のもうひとつの名物が「アカ」「キイロ」という飲み物。アカは焼酎を赤ワインで割ったモノ、キイロは焼酎を梅酒で割ったモノで、それがビンに詰められて提供される。はなっからチャンポンされたアルコールである上に口当たりがよく飲みやすいため、てきめんに酔いが回るらしい。このお店はこれとビール、日本酒、焼酎しかないストロングスタイルな飲み屋となっており、下戸の私はキイロをソーダでうすーく割ってゆっくりと飲む。お酒が大好きな友人は、ビールからはじまり、私の残したキイロ、さらにアカをロックで次々と空けていった。

八角のお酒です

ほどなくしてだいぶ酔っ払った友人が二軒目に行こうと言い出した時、ふとひらめいた。私が作成した“ゲーム機が置いてあるお店リスト”に確か、千葉駅近くのバーがあったハズ……。お酒が飲めない自分にとってバーという業態はハードルが高いので、この機会を逃す手はないのではないか。瞬間的にそう計算した私は、友人に提案しその店に向かうことにした。

地図で見てみると直線距離で約300メートルと案外近い。夜は酔客で賑やかな千葉都市モノレールの葭川公園駅エリアを通り、なかなかにうらぶれた感のある雑居ビルまでやってきた。ここにお店があるようにはまったく思えなかったが、ちゃんと入口前に看板を出してくれていたのは助かった。地下一階にあるようなので行ってみると、言い方は悪いがフロア全体が薄暗い上にまったくひと気がなく怖い。仮にボッタクられた時いくらまで払えるか、財布の中身をチラッと脳裏に思い浮かべた後、意を決してエイヤッと入店してみる。

富士見横丁レトロの外観です

店内は懐かしいレコードジャッケットやホーロー看板が飾られ、奥にある昭和のブラウン管テレビをイメージしたモニターが笑顔で歌うアイドルを映し出していた。
このお店「富士見横丁レトロ」は、いわゆる昭和レトロコンセプトのカラオケバーだ。そして何故か置かれたドラムセットの手前には、お目当てのテーブル筐体が鎮座していた。

テーブル筐体の写真です

まずはソファに腰を下ろしお店のシステムを説明してもらう。2時間3300円飲み放題、カラオケ歌い放題とのこと。下戸の私と、完全に出来上がっておりこれ以上飲ますのは危険な友人の2名と考えるといささかハードめな設定と言えるが、こういうお店としては至って普通の価格だろう。
私はウーロン茶を、友人はハイボールを注文し改めて店内を見回してみる。高さ低めのカウンターといくつかのボックス席がある標準的スナック店といった趣きで、店名にあるレトロアイテムはポツポツあるが全体的には控えめレトロといった感じだ。

店員さんに尋ねてみると、ゲームもやり放題とのことなのでテーブル筐体の電源を入れてもらうことに。写真を撮ってもいいか確認してから改めて筐体を見回すと、コレはニチブツ製ではないですか。しかもコインシューター脇に「ローリング・クラッシュ」「ムーンベース」のボタンが付いた2 in 1のテーブル筐体だと!?

コインセレクターの写真です

『ローリング・クラッシュ』(日本物産/1979)は、セガ『ヘッドオン』(1979)亜種のドットイートゲーム。特徴的なのは8の字の立体的コースレイアウトに反転ゾーンを設け、ゲームをより複雑にしている点。ヘッドオンでは正面衝突の危機を回避し続けるためのコントロールが要求されるのに対し、ローリング・クラッシュは反転ゾーンを設けたことで逆走する事が可能となり、気づけば敵車を後ろから追いかける展開になっていたりする。これは翌年の『ヘッドオン2』(セガ/1980)でのUターンレーンに先駆けたフィーチャーである。さらに8の字コースの一部は立体交差で見えなくなっており、どのレーンがどこに繋がっているかが直感的にわかりにくくなっている。敵車が1台ならともかく、敵車が増える高次面ではなにがなんだかわからなくなること請け合いだ。

『ムーンベース』(日本物産/1978)は自機とUFOを除き、インベーダーデザインなどがほぼ同一のスペースインベーダーコピーゲーム。このムーンベースではタイトーと、次のギャラクシアン亜種『ムーンエイリアン』(日本物産/1979)ではナムコと民事訴訟で争うなど、ワイルドさが光った初期ニチブツの迷作である。

こんなところで、こんな逸品に巡り会えるとは……! 興奮で一気にボルテージが上がり様々な角度から写真を撮りまくる私を、呆れた様子で見つめるママとお客さん。どうやらゲームに関してはあまり詳しくも興味も無いようで、この筐体もなんとなくで置かれているようだった。

テーブル筐体内部の写真です

フリープレイということなので、せっかくだしプレイしてみることにする。前段で随分盛り上げた手前、誠に恐縮なのだが中に入っていたのはこの連載ではすっかりお馴染みのin 1エミュ基板だ。おそらくオリジナル基板は大昔にどこかに売られていったものと思われる。コンパネも後に付け替えられ、ゲーム選択ボタンと「日本物産株式会社」と銘の入ったスチールステッカーのみに面影を残すキメラ筐体と成り果てていた。

テーブル筐体のメーカーラベルです

椅子でなく傍にあったちょうどいい高さのスピーカーに腰掛け、なんとなくドンキーをやり、なんとなくジャイラスをやる。エミュ基板は本腰入れてより“なんとなく”がよく似合う。

そんなこんなでなんとなくゲームをして、ママや他のお客さんと話をしているうちにあっという間に1時間半ほどが経過。そろそろ帰りの電車のリミットが迫ってきていることもありお暇することにした。トドメのハイボールが効いたのか、すっかりぐにゃぐにゃになった友人を抱えてお店を後にする。
この「富士見横丁レトロ」は年内に移転が決っているそう。一区画ほど京成線千葉中央駅寄りになるそうなので、移転後に探して行ってみて欲しい。食事を済ませてから飲み放題というコースがオススメだ。ボッタクリとか疑ってスミマセンでした。

富士見横丁レトロの店内です

普段は“テーブル筐体喫茶”を中心に廻っているが、たまには“ゲーム呑み屋”も取り上げたいなと思っていたところだったので、今回は思わぬ収穫となった。ベロンベロンの友人を電車に放り込み、東京方面の電車に乗る。地元に到着したのは、その日がもう終わろうという時間になっていた。

 

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