鹿児島県霧島市。
成田空港から飛行機に乗り1時間40分ほど。
ここは滑走路の向こうに霧島連峰がそびえる鹿児島空港だ。
南の鹿児島湾を挟むような形で薩摩半島と大隅半島に分かたれる独特な形をした鹿児島県のちょうど分かれる根本あたりにあるのが霧島市で、その南西部にこの空港はある。
初めて鹿児島空港に降り立ってまずやったことはゲームコーナー捜索だが、案の定そんなものはなかった。ただ、空港展示室“ソラステージ”にはコインオペのフライトシミュレーターが2台。1フライト200円と400円。ディフォルメされた飛行機型の筐体に収められたシミュレーターを子どもが目ざとく見つけてキャッキャしているのが微笑ましい。
外に出ると10月だというのに気温が高く日差しが暑い。
ここから鹿児島市へ行くためには、約15分間隔で運行している連絡バスを使うらしい。鉄道がないのは不便かなと思っていたが、正味40分で鹿児島中央駅に着けるなら成田空港よりよほど便がいいともいえる。
いちおうバス券売所の場所を確認してから空港の外に出る。Googleマップで行くべき方向をよーく指差し確認してから歩き出した。
いま私が推しているアーティスト“おじさんと小娘”が鹿児島でワンマンライブをやることが決まったのが8月くらいだったろうか。数ヶ月先の予定は決めづらく、場所も場所だしさすがに行けないだろうな……となかば諦めていた。
それでもライブが近づくにつれ、飛行機だけ一旦予約しとくか……安い宿も見つけたし一旦予約だけ……と外堀を埋める作業に勤しんでいたら、なんとなく行けそうな雰囲気になってきて、それに伴って心のスイッチも切り替わった。何事も最初から諦めていては前に進まない。
実現度が増すにつれ、せっかく鹿児島くんだりまで行くのであれば、ゲームスポットにも行きたいというお馴染みの欲が出てくる。しかし、ゲームについてあれこれ調べてはみたものの全体にどうも薄ぼんやりとした情報しか出てこない。さらに2泊3日の旅程での土日定休や営業時間の噛み合わなさも相まって、ただでさえ薄めの情報が次々と潰されていく。まぁこればかりは仕方がない。うまく出会えたらラッキーぐらいに思っておこう。
最初の目的地は空港の近くにあるとのことで、歩くこと30分ほど。観光客ならまず来ないであろう鬱蒼とした茂みを抜けると広々とした田園風景が目に飛び込んできた。のどかな景色の中には点々と建てられたラブホテルが見えた。
そのうちのひとつ、『HOTEL 21』が鹿児島県における第一チェックポイントだ。
真っ昼間のラブホテルにはえも言われぬ緊張感がある。こんな時間に訪れる客などいずれもワケありに違いないと邪推してしまうからだ。別の意味で邪な目的を持ってやってきた一見客としては、なるべくお邪魔にならぬよう恐る恐る店内に入っていく。
電灯の消えた薄暗いインフォメーションに人影はない。置いてあった呼び鈴を鳴らしてみると奥から従業員が出てきた。
こういう時はできるだけ堂々とストレートに「ゲームが遊べる部屋はありますか?」と尋ねてみるのがいい。ラブホテルには変わった客が多いので、怪しい素振りさえなければその程度の変化球はなんなく受け止めてくれる、とラブホでのバイト経験が長い友人が教えてくれたのだ。
一瞬考えた様子になってから「昔はあったけど今は……」との返答。ネット情報がすでに古くなっていたかー! と膝から崩れ落ちそうになる気持ちをグッとこらえてやりとりを続けていると「残ってる部屋はあったと思うけど、いま使用中です」と変化しはじめ、さらには「201にあったかな……」とより具体性を帯びてきた。
こうなるとこちらも恥も外聞も捨てて、東京からはるばる来たんですぅ~と同情を誘う熱演を繰り広げ、どうにか空いてる部屋まで見に行ってもらうことに成功した。30分も歩いてきた一軒目から空振りとかマジ勘弁! と手を合わせて神に祈っていると、戻ってきた従業員さんから「201号室なら空いててゲームもあった」との朗報が。神よ!
満面の笑顔でお礼を言うとエレベーターで2階へと上がり、誰もいないことを確認してからランプのついた201号室に素早く入った。
シックだが微妙な柄の壁紙の薄暗い部屋。
ダブルベッドとソファセット、鏡台、マッサージチェアがいかにもラブホテルな感じだ。わりと大きめの液晶テレビがあり、その下のキャビネットにはお目当てのブツが置かれていた。
ファミコンボックスだ。
ファミコンボックスは任天堂が開発した業務用ファミリーコンピュータで、最大15タイトルの内蔵ゲームから選択して遊ぶことができる。大手旅行会社JTBの子会社JTBトラベランドによってリース販売されたファミコンボックスは、主にホテルや旅館の客室への設置を目的として企画された商品だ。コインボックスが付属しており、100円10分から15分でのコインオペ営業も可能となっていた。
ここのファミコンボックスは向かって右に取り付けるはずのコインボックスが取り外され、フリープレイモードに設定されているようだった。よく見ると筐体前面にある鍵穴がなにかで埋まっておりキーが差し込めないようになっているなど、かなり使い込まれた様子が見受けられた。
このホテルに長らく置かれ続けた当時モノなのか、あるいはオーナーの趣味で後年設置されたものなのか、その辺りは不明だ。いずれにせよ2026年まで稼働させていることには並々ならぬこだわりを感じる。
内蔵ゲームは日本販売のカセットとは異なる平たく薄い形状のカセットにより供給された。これはNintendo Entertainment System(NES)のカセット形状と同一のもの。
3列5本のタイトル名が前面の窓に表示されるようになっており、ゲーム10本入りの基本セットにオプションとして5本セットを追加できる仕様だ。
窓には『スーパーマリオブラザーズ』『ベースボール』『高橋名人の冒険島』『魔界村』『プロレス』『ゴルフ』『F1レース』『麻雀』『戦場の狼』『ダックハント』『ボンバーマン』『スーパーチャイニーズ2』『1943』『ナイトライダー』『ウィナーズカップ』の15本が表示されていた。
コントローラーはNESのものを流用している。市販のファミコンと比べるとケーブルが長く、一般家庭よりもテレビから離れた位置でのプレイを想定していることがわかる。また『ダックハント』で使用する光線銃も備えているが、海外版の“Zapper”仕様となっている。あまり見慣れないはずなのに、不思議と見知ったデザインがかっこいい。
テレビのリモコンで“ゲーム”ボタンを押したらすぐゲーム選択画面が表示された。コインボックス付属タイプだと100円を投入するとこの選択画面が表示されるようだ。ここでは営業時間中ずっとファミコンボックス電源がオンになっているのだろうか。ひょっとすると。さっき部屋を確認してもらった際に気を利かせて入れてくれたのかもしれない。
表示された15カセットのマスのうち、7つのマスが暗くなっている。つまり8タイトルがプレイ可能のようだ。プレイ不可なのは『ゴルフ』『F1レース』『麻雀』『ボンバーマン』『スーパーチャイニーズ2』『1943』『ナイトライダー』。
2022年にアップされたGoogleマップでのこのホテルの写真を見ると、本体窓の4マスがブランクとなっていた。『ボンバーマン』『スーパーチャイニーズ2』『1943』『ウィナーズカップ』は後から追加されたようだ。現在とはカセットの位置も異なっており、定期的なメンテナンスや試行錯誤の跡がうかがえる。
次に一本ずつ遊べるかどうかを確認してみる。コントローラーの動作も上々で問題なくプレイできたが、ただひとつ『ダックハント』だけは遊ぶことができなかった。設置されているのが“液晶テレビ”だったからだ。画面に銃を向けて引き金を引いても虚しく空を撃つばかり。
カップルで訪れた彼氏が、彼女に華麗なガンアクションでいいところを見せようとしても決してカモに命中することはなく幻滅されるのではないかと思うとなかなかに痛快ではある。そんな時は任天堂の名作『プロレス』もしくは『ベースボール』の接待プレイで、どうにか彼女の機嫌を回復させてステキな夜を過ごしてもらいたい。
部屋に入った瞬間からファミコンボックスに夢中になり、気がつけば1時間が過ぎてしまった。これだけのために2時間4,700円を支払った私ではあるが、鹿児島県到着直後にそんな時間をとられている場合ではない。
立つ鳥跡を濁さずとばかりに素早く荷物をまとめてホテルを出た。
すでに西の空は赤く染まりつつあった。
次はテーブル筐体があるという情報を掴んでいた喫茶店に向かう。今度は鹿児島空港の反対側だ。せっかく鹿児島に来たのに、全然空港周辺から出られない。
結論を言ってしまうと、テーブル筐体は撤去されており確認することはできなかった。
失意のままチョコパフェを食べつつ、お店のお母さんになんとなく話しかけてみると「いまでも懐かしがってくれるお客さんが多いから、そのまま残しておけばよかった」だそうだ。
飛行機が離陸する音を聞きながらとっぷりと陽が暮れた鹿児島空港の方をみつめ、ひとつ大きな溜め息をついた。
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