千葉県千葉市若葉区都賀。
なんとなく目的を曖昧にしたまま、少しだけ遠くに行きたくなる時がある。居住地が東京の西側なので、千葉市あたりまで来るとほんのり旅情感が漂ってくる。
千葉市に行くのは、新宿からなら素直に総武本線に乗って行くのが王道かもしれない。今日は明確な目的が定まっていないがゆえに、なんやかんやで東京駅まで行って京葉線に乗り、一見ムダのような迂回ルートで千葉を目指すことにした。
東京ディズニーランドよりも幕張メッセに行った回数のほうが圧倒的に多いのだが、京葉線に乗って海浜幕張駅を素通りしたのは初めてかもしれない。
JR千葉みなと駅で下車し、千葉都市モノレールに乗り換える。車両の上側にレールがありそこから吊り下がる形で走行する“懸垂式モノレール”が特徴的な千葉都市モノレール。ついに主流交通とはなり得なかったモノレールだが、この懸垂式の大きなメリットが雨に強いことだ。今年8月に発生した千葉豪雨では、市内の鉄道が軒並みストップするなかで臨時便を増発しただけでなく、終電の後も運行を続けて帰宅困難者の希望になったという。
そんな頼もしくカッコいい姿を見送ってから改札を出た、ここは都賀駅。
読み方も難しければ、所在地も判然としない都賀(つが)はざっくり言えば、千葉から成田に向かう途中にある小さな街だ。
西口ロータリーはのどかの一言。この連載のごく初期、第4回で訪れた千葉県佐倉市もこの総武本線沿いにあるのだが、まったく同じ雰囲気を醸し出していた。
ロータリーを抜け真っ直ぐ行くと、1階がレンタルビデオ店、2階がゲームセンターだったとおぼしき建物が。そこから上の階にテナントが入ってる様子はなく、相当以前からビル丸ごと時間が停止したままになっていることが伺えた。さすがに機材はすべて搬出してるとは思うが、なんだかロマンを感じる。
しばらく先を進むと、この辺では大きめでイカツい雰囲気のあるスーパー西友都賀店が見えてくる。1階、2階が西友のフロアで、3階には100円ショップがある地域の便利店といった感じ。その百均の隣にはちょっとしたゲームコーナーが。『ファミリーアミューズランド』という名称のようだ。
エレメカ、コイン、プライズ、クレーンがぎっしり並んだ一角にビデオゲームコーナーも少しだけ。
訪問時にアストロ系に入っていたラインナップは『ワンダーボーイⅢ モンスターレアー』(セガ/1988)『VS.スーパーマリオブラザーズ』(任天堂/1986)『『ストリートファイターⅢ 3rd STRIKE -Fight for the Future-』(カプコン/1999)、そしてカルトな人気の高い『ずんずん教の野望』(セガ/1994)。なんともクールな並びだ。しかも100円2クレジットで遊べるのが嬉しい。
その隣のひときわレトロなテーブル筐体に入っているのは『スペースフィーバー』(任天堂/1979)だ。こちらは1プレイ100円だが、とても綺麗な外観の純正品。テーブル筐体お馴染みの天井照明反射よけ段ボールもしっかり常備されている。
この『スペースフィーバー』とうまい棒の段ボールというコンビには強い既視感があった。
そう、連載第56回『千葉県八千代市「まぼろし堂」~印西市「ドン・キホーテ」』で訪れたイオンモール千葉ニュータウンの一角にあったモノとおそらくは同一個体だ。この時は『VS.スーパーマリオブラザーズ』にも遭遇している。
千葉ニュータウンの店舗『スーパーハンマー』と、ここ都賀の『ファミリーアミューズランド』はともに、川崎にある株式会社ドリームゲートというアミューズメント業者が運営している。だから機械と基板は共有しているのだろう。いくつかある『スーパーハンマー』はすべてドン・キホーテにあるみたいだし、これはすべての店舗を巡ってみるのも面白そうだ。
あとエレメカやプライズ系に“こまや”のタイトルが多めなのもポイント。
株式会社こまやは兵庫県神戸市に本社を置いたアミューズメント機器製造・販売会社で『ケロケロパックン』(1980)、『山のぼりゲーム』(1981)など数多くの名作エレメカを生み出したことで知られる。
訪問時は『スターリーライン』(1991)『フラッシュ&サウンド』(1996)『じゃんけんポン』(1989)『アヒルのヨーイドン』(1990)『ゴーストシューター』(1993)といった、ひと目見ただけでどこか懐かしさを覚える“ザ・こまや”な機械たちが並べられていた。『ぱおぱおくれーん』(1990)などは黄色と黄緑の色違いの筐体が背中合わせに配置されるという心憎い演出も。
こまやは一貫してCRTモニタを使用しないエレメカ製品を作り続けたメーカーだった。ビデオゲーム全盛期にはそのアイデンティティを失いかけたエレメカだが、直感的視覚的に気持ちがよく、手触りの温かみと懐かしさが入り混じった職人の仕事を感じさせる。へんに捻らずまっすぐに“遊び”を見つめていたことを今更ながら実感させてくれる。
すでに廃業して久しいこまやだが、来年2027年には設立60年を迎えることになる。いまだに根強いファンの多いメーカーだし、なにか起こらないかな。
さて、都賀には本当はもう一軒、行きたい駄菓子屋があったのだが、残念なことにすでに閉業していた。コロナ以降に立て続けに駄菓子屋が閉店したあの流れに巻き込まれた格好だった。後悔先に立たずだ。
ならもう一軒、いつなんどき無くなるともしれない駄菓子屋を確認しておくべきか。
JR都賀駅の一駅お隣にある四街道駅。
改札を抜けて北口に出ると、これまた総武本線独特の雰囲気が色濃い。同じ時代に各駅を改装したと思うのだが、全体になにも考えずに作りを似せすぎている印象だ。
線路沿いを東に歩いていくとすぐに住宅街に入り、意外と勾配のある曲がりくねった道をさらに進んでいく。やがて三角地らしき場所に小さな商店らしき建物が見えてきた。
遠目だと営業してるのかしてないのかまったく判然とせず、近くに寄ってみてもなおやっている感じがしない。
ここが駄菓子屋の『アイセ商店』だ。
なんといってもインパクト強烈なのが、店頭に置かれたボロッボロのミニアップライト筐体。よーく目を凝らして見ないと何台あるのかよくわからないほどで、正直ゲーム機だと気づかない人もいるのではと思うくらい朽ちている。下部の土台が腐って合板が外れ、あと少し傾いたらそのまま斜めに崩れ落ちてしまいそうな状態だ。
エイトラインスロットにポーカーゲーム、もう1台はパネルに麻雀牌が描かれてるスロット系のなにかっぽいけど……と、ゲームを確認するためにしゃがんでグッと覗き込み、スマホを様々な角度で突っ込んでは激写しまくった。
随分と奇抜なポーズのままふとお店の入口を見たら、不思議そうにその様子を見つめる店主さんとバッタリ目が合ってしまった。
いや、あの、こんなところに、駄菓子屋さんってちょっと珍しくてついスミマセン……としどろもどろになりながら、店内にスススと入り込んで駄菓子を購入することに。販売している駄菓子の種類もかなり絞り込んだ様子で、確信はないがこれを売り切ったらお店を閉めてしまうのではないかという、よくない不安が頭をかすめる。
聞けば1983年からここで営業しているそうで、その頃から店頭にゲーム機を置いたままらしい。40年以上風雨に晒されているとこんな具合に朽ちていくんだな。当然もはやプレイすることも叶わず、かといって粗大ゴミとして処分するでもない。当たり前のようにじっと立ち続けて、ある日小さな音を立てて崩壊するラストシーンを妄想した。
お店の裏側にある自販機で缶コーヒーを買い、設置されたベンチに座って一息つく。腰掛ける瞬間、この椅子は後ろに崩れたりしないだろうかと頭をよぎったが大丈夫だった。
すぐ隣には『ジャンケンマン』が道路と反対向きに置かれている。これでは遊ぶことができないが、つまりはそういうことだ。
不思議なくらい周囲に人の気配がなく、聞こえてくるのは虫の声くらい。
穏やかに陽が差し込み、抜けていく風が心地よい。
こんな終末も悪くないなと思った。
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