【第79回】東京都大田区「桜館」

東京都大田区西蒲田。

蒲田は、黎明期の日本映画制作を支えた松竹蒲田撮影所を舞台にした映画「キネマの天地」や、“階段落ち”でお馴染みの「蒲田行進曲」で有名な“映画の街”で、近辺に12軒もの映画館が軒を連ねた時代もあったという。
2019年に最後の映画館であった蒲田宝塚・テアトル蒲田が閉館し、ひとつの色を失った蒲田だが、我々世代のゲームファンには“ナムコの聖地”としての一面がまだうっすら残されている。

観覧車の写真です

蒲田駅直結の東急プラザ屋上にある“幸せの観覧車”。この観覧車のある屋上施設“かまたえん”を運営してきたのがナムコ(現・バンダイナムコエクスペリエンス)だ。
1968年に蒲田東急ビル屋上に設置された通称“お城観覧車”は、1989年に二代目の“グレ太の観覧車 フラワーホイール”にバトンタッチし、2014年の東急プラザ蒲田全館リニューアルをもって45年の歴史に一度終止符を打った。しかし地域住民の熱烈なラブコールにより、リニューアル後に復活し2026年現在は東京都内唯一の屋上観覧車となっている。

観覧車の初代機稼働開始時の1968年に『バルジ大作戦』、二代目稼働開始の1989年には『ウイニングラン』と、観覧車が絶え間なくぐるぐる廻り続けていた間にもナムコはゲームファンを驚かせる画期的なゲームを数多く送り出してきた。とっくの昔に大田区から本社は移転しているものの、この地で観覧車が廻り続けている限りナムコゲームは不滅なのではないかと感じさせるシンボリックな存在である気がするのは、少々ロマンがすぎるだろうか。

そんなことを考えながら観覧車に別れを告げ、東急池上線沿いを歩いていく。20分ほどで到着したのは、大田区池上にある銭湯の『桜館』だ。
今日は昼間っから湯に浸かってから、夕方頃に友人と合流しコンサートに行く予定になっていた。しばらく銭湯に行けず心身ともに疲労が蓄積していたのでのんびりと大きなお風呂で手足を存分に伸ばしたいと考えたのだが、銭湯の営業は15時前後からが多い。その点『桜館』はお昼の12時からやってるのがとてもありがたい。

桜館の写真その1です

あまり大々的に打ち出してはいないが、実は大田区は“温泉郷”である。
植物が分解された高分子有機物のフミン質を含み、透明度の低い黒褐色の湯が特徴でアルカリ性の“美人の湯”と言われている。
さらに大田区にはこの黒湯の温浴施設だけで17箇所あり、それ以外の普通の銭湯を合わせると実に30軒を越え、堂々の都内最多数を誇っている。

桜館は1階の浴室から2階のサウナ、3階の露天風呂に全裸移動ができる構造になっている。まるでスーパー銭湯のようだが都内銭湯料金(サウナ別)で楽しめるのが魅力だ。さんさんと太陽の照りつける真っ昼間の露天風呂ほど優越感に浸れる場所はない。極楽の極みだ。

たっぷり湯を楽しんだあとは、着替えてロビーから2階へ。ここは宴会ができるほどの広さを持つ飲食フロアになっており、湯上がりの熱気を冷ましながら食事やアルコールを楽しむことができる。
さすがにこの時間はまだ空いている座敷席の一角を陣取り、メニューを吟味してピリ辛麻婆茄子丼を注文した。お値段700円はスーパー銭湯の食事処と比べてもお得感がある。

さて、料理が届く前にゲームコーナーも見ておこうかな。
そう、ここはちょっとしたゲームもある“ゲーム銭湯”なのだ。

桜館の写真その2です
桜館の写真その3です

ビデオゲームは麻雀が2台に、エイトラインスロットが2台。
麻雀は『麻雀 世界の神秘』(ダイナックス/1994)と『麻雀 大東洋圏』(ダイナックス/1996)。他にもスロット機が3台と小型もぐらたたきゲーム『宇宙防衛隊』(FDEK)、ミニクレーンなどもあって大人も子どもも楽しめるラインナップだ。

この銭湯に来るたびにゲームコーナーに寄っているが、毎回必ず誰かしらが麻雀かスロットで遊んでいる感じがする。おそらくはご近所の常連さんだろう。お風呂に入って、軽く一杯やって、ゲームに興ずる……なんてのはこの世の極楽だもんな。私も老後はぜひそのような生活を過ごしたい。

桜館の写真その4です

「ゲームセンターCX」の有野課長も来ていたようでサインが飾られていた。あとで調べてみたら第23シーズンの288回で訪れ、クレーンゲームに興じていたようだ。
ゲームロケーションのぶらり旅を趣味にしていると、行く先々で課長のサインに遭遇することになる。「ゲームセンターCX」の人気コーナー『たまに行くならこんな××』(たまゲー)の訪問先リストを見ると、さまざまな場所が結構な割合で先んじられていることがわかる。さすが放送回数400回を越え、23年も続くオバケ長寿番組だ。

桜館の写真その5です

『たまゲー』は第2シーズンから続く看板コーナーで駄菓子屋や文具店、ちょっとしたゲームコーナーなどあらゆるゲームがある場所にスポットを当ててきた。本連載とテーマがバッティングしているのだから訪問先が被るのも当然だろう。
訪問リストの中には、自分が訪れることができないまますでに閉店してしまったお店も多数あり、己の不甲斐なさにギリギリと歯噛みしたくなる。
同時に、テレビで放送されはしたもののDVDには未収録、もしくはフジテレビONEのアーカイブでも都合上一部はカットされている『たまゲー』も多く、このまま視聴する手段もないまま埋もれていってしまうことはゲーム文化的にみても大いなる損失ではないだろうか。

しっかり湯冷ましをしてピリ辛麻婆茄子丼を食べたらなんだか眠くなってきた。このまま動けなくなってしまう前に桜館を出て、東急多摩川線の武蔵新田に向かうことにしよう。外に出たら日差しが暑くて、少し動いただけで汗が吹き出てくる。さっそく帰りたくなってきているが、今日のメインイベントはここからだ。足を引きずるように歩き、友人と待ち合わせた大田区矢口にある『中華麺舗 虎』にたどり着く。

虎の外観です

これから行くコンサートは、東急多摩川線下丸子駅前にある大田区民プラザ大ホールで開催されるのだが、前からどうしても気になっていたこのお店に行きたい! とわがままを言って、お隣の駅待ち合わせにしてもらったのだった。友人は2人ともこのあたりには土地勘がないようで、おそらく多少の疑問を抱きつつも快諾してくれた。

大衆中華店ということで炒飯、焼き餃子、水餃子、レバ炒め、もやしそばをシェアすることに。ほどなくしてやってきた料理をモリモリと食べていく。そういえばお昼も中華だったことを思い出すが味が違うし何ら問題はない。

虎の料理です

なぜこの店に来てみたかったかというと、ここ『中華麺舗 虎』がドラマ『SPEC~警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿~』のロケ地だったからという非常にミーハーな理由だ。友人らはどうやらドラマを観てないようで、これ以上話が盛り上がることもないが、聖地巡礼とはそんなくらいの温度感でいい。

『SPEC』はドラマを軸として映画、コミック、小説などメディアミックスを展開した作品でもある。実はニンテンドー3DS用として『SPEC~干~』というアドベンチャーゲームも発売されている。ドラマのファンとして一応押さえはしたのだが、遊ぶ機会がないまま今日まで来てしまっていた。せっかくの機会だし、家に帰ったら起動してみようか。3DSってどこにしまったっけかな? そして強引にゲームネタを放り込んでなんとかこの原稿を成立させようという性根がいやらしい。

DS「SPEC」のパッケージ画像です
▲ソフトは発見されたが3DSが見当たらない

満腹になったので、腹ごなしも兼ねてお隣の下丸子まで歩くことにする。10分ほどなのでわざわざ電車に乗るほどでもないだろう。大田区民プラザに着いたらすでに入場ははじまっていて、ホール内に入った。ステージ上には椅子が並んで楽器が立てかけられており、ライブ前独特の空気感が充満していた。

本日のコンサートの演目はというと、コレだ。

パンフレットの写真です

ゲーム音楽を中心に演奏するプロオーケストラ団体「新日本BGMフィルハーモニー管弦楽団」(NJBP)による“セガ アーケードゲーム特集”公演。
NJBPの公演は#11“ナムコ特集”を初めて鑑賞して、いたく感激した。管弦楽でゲームミュージックを奏でて大きなホールで聴くとこんなにも豊かな響きなのか! と震えるほどだったことを記憶している。
NJBPはハムスターが主催するアーケードアーカイブスの周年イベントでも毎回演奏を行っており知名度と人気が上がってきている印象。無料でこんな素晴らしい演奏が聴けるなんてヤバすぎると私の中ではすっかり神イベントと化している。
去年の#17“タイトー特集”もシビレたなぁ。

風呂に入りメシを食い、さらに歩き疲れた状態で聴く管弦楽のゲームミュージック。
睡魔の誘惑との戦いになりそうな予感しかないお膳立てではあるが、やがてホールの客電がゆっくりと落ちていき、居並ぶ楽団員の呼吸が整うと美しい音色が流れはじめた。

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著者紹介
さらだばーむ

目も当てられないほど下手なくせにずっとゲーム好き。
休日になるとブラブラと放浪する癖があり、その道すがらゲームに出会うと異様に興奮する。
本業は、吹けば飛ぶよな枯れすすき編集者、時々ライター。

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