東京都渋谷区。
御茶ノ水の事務所でひとしきり作業をして、さてじゃあ自宅に戻ろうかと帰り支度をしていた時、ふと行きたい場所があったことを思い出した。よし、メシも食いたいし時間も程よいし、ブラッと寄ってみるか。
渋谷駅はJR線と東急線、東京メトロ、京王線が絡み合う鉄道交通の要衝。それらの線路と東西に奔る首都高速3号線、南北を貫く明治通りとでざっくり4つのエリアに分けられる。
今歩いているのは、セルリアンタワー、渋谷インフォスタワーなどがある南西エリア。渋谷の中でもひときわ落ち着きのあるビジネス街で、もう少し進むと代官山という東京屈指のおしゃれゾーンにもリーチできる。つまり私にはもっとも縁遠いエリアだ。
ひとつめの目的のお店『まぜそば 七』の前には行列ができていたが、回転もよくすぐに入店できた。
まぜそばがメインのお店だけど、今日はやけに寒いので旨辛らぁ麺を食べてみることにしようかな。
辛味と旨味が渾然一体となったスープを一口。続いて太麺を豪快に啜る。ノドを激しく刺激され思わずむせそうになり、一旦水を飲んで心を落ち着かせる。危ない危ない。
辛いラーメンは熱中度がぐっと上がり、同時に体温も上がる。すると最終的な満足度が1.2倍くらい高くなる気がしている。でも次やるならまぜそばかなぁ……などとあれこれ考えながらあっという間に食べ終え、すぐ隣りにある渋谷サクラステージのエスカレーターに乗った。
ここのところ開発著しい渋谷に、近年完成した複合型商業施設が“渋谷サクラステージ”だ。低層階の商業テナントに空きが目立つことから“日本一新しい廃墟”などと揶揄されたりもする施設だが、上層階のオフィスフロアは堅調だとの噂もある。
それはそれとして、やたらと縦長に伸びた構造をズイズイとエスカレーターで上っていくと、ふたつめの目的地『これはゲームなのか? 展3』会場が見えてきた。
ゲーム作家、ゲーム研究者、謎解きクリエイターらが集結し“ゲームとはなんなのか”を問い直す実験的作品を試遊できるという企画展だ。いわゆるアナログゲームの領分に属するジャンルなのだけど、「ゲームある紀行」という名でやっているし無関係ではないよね―という強引な建て付け。
ひとつずつルールを読んで実行してみる。
なるほど。
ルールは自由で、それによって結果の出力があっても特にそれらしいものがなくてもうっすら成立する“ゲーム”もあるんだな。無限に広がるゲームの定義、奥深い。
ただひとつ言えるのは、こういう展示はひとりでは盛り上がりようがない。複数人であーでもないこーでもないとやるのが絶対楽しいよな……とソロ活民はすごすごと引き上げることにした。あとゴメンナサイ。この展示は2月14日に会期が終わっています。
続いては、首都高速3号渋谷線が頭上を走る玉川通りを越え、再開発で誕生した渋谷ヒカリエのあるエリアに抜ける……などと簡単に言ったものの、この短い距離を移動するのにも難儀するのが現在の渋谷だ。
渋谷駅の再開発工事は2035年頃までかかるとみられており、日々通れる道が刻々と変化している。新宿駅西口も同様の状況だが、とにかく工事が完了するまではこの不便を受け入れるほかない。ダンジョン自動生成のゲームとでも思えばいい。
宮益坂を渡り、明治通り沿いにある『GiGO 渋谷宮益坂』へ。
国内外に600を超える店舗を有する巨大アミューズメント施設運営企業として成長を続けるGENDA GiGO Entertainmentが運営する“GiGO”。
かつて印象的なネオン看板が映えていた「HI-TECH LAND SEGA 渋谷」が装いも新たにリニューアルし、1Fにクレーンゲームと音楽ゲーム、7Fにカードゲーム機、オンライン麻雀など多様なゲームを取り揃えている。

▲HI-TECH LAND SEGA 渋谷のネオン看板。いまはもうない。
ちなみに2Fから6Fまではボウリング場やビリヤード場を別の企業が運営しており、1Fと7Fという変則的なフロア構成となっている。
普通のGiGOならあまり用はないところだが、昨今ここの7Fにはレトロアーケードゲームがじわじわと増えてきているのだ。
『ラッキー&ワイルド』(1993)、『レイブレーサー』(1995)、『トラック狂走曲』(2000)と、旧セガ系店舗なのになぜかナムコ推しのラインナップで固めているのは、店長の趣味なのか、動かせる機体がたまたまあったからなのか。中でも『トラック狂走曲』はいまや珍しい希少な一台と言えるだろう。ただ、まだメンテナンス中のようなので稼働する日を心待ちにしたい。
その向かい側にはブラストシティが4台、ボックス状に組まれている。
『グラディウスⅡ』(コナミ/1988)、『ライデンファイターズJET』(セイブ開発/1996)、『ストライカーズ1945Ⅱ』(彩京/1997)、『怒首領蜂 最大往生』(ケイブ/2012)とシューティングゲームのみでまとめられており、ここにも店長の趣味がかなり色濃くにじみ出ている(妄想)。しかもいずれも100円2プレイ設定。渋谷の一等地でこのラインナップをこのプレイ料金で。実にグッとくるサービス精神ではないか。
とりあえずはレイブの参拝をしっかりキメ、今後のさらなる拡充にも期待しつつエレベーターで地上へ。GiGOも店舗によってはまだまだビデオゲームを設置していることがあり侮れない。街でGiGOを見かけたらとりあえずぐるっと一周回ってみることをオススメしたい。
ここから明治通りを渡ってJRの線路を越えると渋谷のメイン繁華街となる、忠犬ハチ公が駅前を守護するセンター街方面に出る。
かつて渋谷でゲームセンターといえばここにとどめを刺すと謳われた「渋谷会館 モナコ」、山手線高架下の強豪店「すーるぽん」などが存在したエリアだ。ほかにも、現在よしもと漫才劇場がある場所はかつて「インティ渋谷」というメダルゲームを中心としたバー併設のナムコ直営ゲーセンだったり、海外製ロボットバトルシミュレーター「バトルテック」(バーチャル・ワールド・エンターテインメント/1990)がプレイできた「ドクタージーカンズ」があったりと、個性的なゲーム店舗がひしめいていた。
公園通りの坂を上がったところにあるファッションビルPARCOに入り、エスカレーターに。そろそろ渋谷の人混みに辟易としてきているが、ここがラストだ頑張ろう。
渋谷発信の流行とカルチャーを永らく牽引してきたPARCOは、2023年にゲーム事業専門のチームを発足。ゲーム事業開発部として部署化したのち、2025年には「PARCO GAMES」という新レーベルを立ち上げ、ゲームのパブリッシングに乗り出した。
これまでは他社ゲームとのコラボやポップアップショップを展開するだけだったが、いよいよ本丸へと進出してきたというワケだ。インディーゲームの販売やその開発を目指しているというが、インディーゲームの持つ独立性、独創性やサブカルチャー的風土は、PARCOのインキュベーションスピリッツとも親和性が高いのかもしれない。
ゲームがカルチャーの一ジャンルとして捉えられるようになって久しいが、どこまで行っても垢抜けない面は、流行の中心地としての渋谷とは噛み合わないイメージがあった。多分にそれは渋谷に対しての偏見で、いつしかゲームの街だった秋葉原が渋谷化していったこともどこか卑屈な自虐として影を落としていたように思える。
そんな愛憎入り交じる、端的に言えば苦手な街“渋谷”でPARCO GAMESほか数社が中心となって開催したのが、街全体を舞台とした都市型ゲームフェス『SHIBUYA GAMES WEEK 2026』だ。先ほど訪れた渋谷サクラステージの『これはゲームなのか? 展3』もそのイベントのひとつだったのだ。
ゲームをテーマとした街巡りという意味では、本稿のメインテーマとも合致する……と、これまた強引な括り方もできなくはない。
……といった次第で、渋谷PARCOにオープンした『PARCO GAME CENTER』にやってきた。
様々な店舗が集結しゲームグッズやコラボアイテムなどを販売するだけでなく、ゲームの試遊やレトロゲームの展示などで新旧のゲームカルチャーを体験できるという複合ショップだ。
ゲーム機保存研究家・吉田伸一郎氏とハードオフがコラボした「HARD OFF 幻の渋谷店」と銘打ったショップではリユース商品の販売や、電子ゲームの試遊や展示が行われた。ショーケースには厳選された電子ゲームがズラリ。光速船やオデッセイといった歴史的名機の姿も会場のあちらこちらに散りばめられており、「ゲームの名を借りたチョロいイベントとはひと味違いますよ」という強めのアピールも感じる。
ほかのショップに並べられたゲームやアニメに関するファッションアイテムのチョイスにも渋谷らしさがにじんでいる。そうかと思えば、達成電器の「G’AIM’E タイムクライシス」や、タイトーの「イーグレットツーミニ」、グラスホッパマニファクチュアの最新作「ロミオ・イズ・ア・デッドマン」などガチゲーマー向けアイテムもうまく溶け込んでいる印象。全体の雰囲気としての雑多なアジアンイメージはいかがわしさと退廃、POPを混ぜ込んだような懐かしくも落ち着く気怠い空気感を出すことに成功している。
また、もうひとつのファクタ―である“アート”でいえば、漫画家、アーティストとして精力的な活動を展開しながらインディーゲーム開発も行っている作家・西島大介氏のゲーム作品に注目が集まっていた。
入口に置かれたミニアップライト筐体には、千葉市美術館に所蔵されているオリジナルゲーム「さいばぁぱんく」が、店内のテーブル筐体にはNHKのアマチュアゲームコンテストでも話題となった「スペースインベーディアン」が体験できるようになっており、若い人も興味深そうに眺めている姿が印象的。
「どれどれ……お手並み拝見といこうじゃないか」などとイヤな玄人目線でこうしたイベントを見てしまいがちな自覚はある。それでもここでは隅から隅までちゃんと楽しめてしまっていることは素直に嬉しくも思う。
目まぐるしく変化する渋谷の街にゲームカルチャーは定着するのか。古ぼけた頭ではどうも想像しにくいところだが、秋葉原や中野あたりから渋谷に盛り上がりが移っていくことが十分ありえるのが、東京という都市の面白いところなんだろうな。
あ、『PARCO GAME CENTER』は3月2日(月)までの開催なので、気になる方はどうぞお急ぎください。
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