【第61回】東京都練馬区「ゲームパーク石神井」~「居留珈」

東京都練馬区石神井町。

9月10月は仕事で西武池袋線石神井公園駅を訪れる機会が多かった。
仕事なので散歩をするヒマはあまりなかったのだが、このあたりもしばらく散策してなかったなーと思い、休日に改めてブラリとやってきた次第。

30年ほど前まで練馬と江古田を転々とする西武池袋線住民だったので、天気のいい日には石神井公園で散歩をしたりしていた。あの頃は散歩に癒やしを求めていたものだが、今は失われつつあるゲームの影を追い続けている。歳を重ねると趣味が枯れていくものかと思えば、実際は逆になってきている気もする。レトロゲームはもう盆栽並みに枯れた趣味なのかもしれないが。

石神井公園駅です

西武池袋線は高架化が進み、石神井公園駅の駅前もかつての面影がないほどに様変わりしてしまった。南口側にある商店街の狭い道路は両脇にお店が立ち並び多くの人が行き交うが、そんな混雑の中をバスが慎重に駅へと向かっていく様子が印象的だった。いまは迂回路が開通しバス交通もずいぶんと安全になったが、そうなると不思議なもので今度はちょっと物足りない。

ゲームパーク石神井です

石神井公園南口の商店街には、ゲームセンターが一軒だけ生き残っている。
『ゲームパーク 石神井』はその外観からも渋みがビンビン伝わってくるが、店内も90年代の風合いを色濃く残す“THE ゲーセン”である。
タバコ吸い放題だった時代を今に伝える紫煙でたっぷり燻された壁の色合い、絨毯張りの床からも年季が感じられるし、壁に貼られているのはモーニング娘。やゲーム『卒業 graduation』のポスターだ。あの時代が見事なまでにパッキングされているのと同時に、今でも現役でビデオゲームが稼働する貴重なゲームセンターとして地域に愛され続けている。

ゲームパーク石神井その2です

ゲームパークを出て石神井公園通りを南下。右手の景色が開けた辺りが石神井公園の入口になっている。
石神井公園は三宝寺池、石神井池のふたつの池を擁する風致公園。三宝寺池沼沢植物群落と呼ばれる天然記念物があり地下水が湧き出る緑豊かな景勝地として親しまれてきた。

練馬区に住んでいた頃は公園内にある茶屋を目当てによく訪れた。海の家のように壁のないあけっぴろげな木造建築の茶屋・豊島屋は、漫画「孤独のグルメ」の一編でモデルにもなった公園の休憩所だ。大正年間創業を数えるその佇まいは、日本人なら思わず目を輝かせずにおれない詫びた雰囲気をそのまま維持している。
かつて周辺に長らく住んだ知人によると、豊島屋のほかにも茶屋がありそこにはビデオゲームが置かれていたとか……。想像するだけでもなんともトキメク光景ではないか。

とりあえず今日のところは石神井公園はスルーして、その少し先にあるシックな喫茶店『居留珈』に入る。
日中でも照明が暗めに調整された店内は天井から吊るしたオレンジ色のライトが落ち着いたムードを作り出す。席はほぼ埋まっているようだが、ちょうどテーブル筐体の席だけが空いていた。これはラッキー。

テーブル筐体の写真です

アイスコーヒーを頼んでヤレヤレと一息。以前に来た時はこのテーブル筐体はもっと奥側に置かれていた。そしてもう一台、麻雀ゲームのテーブル筐体があったはず……。見渡したところ、どうやらテーブル筐体はこの一台だけになってしまったようだ。調べてみたら『麻雀 立直』(ダイナックス/1994)が入った筐体が姿を消していた。残念だが一台残っただけでも御の字としよう。

テーブル筐体の写真その2です
▲(写真は2021年訪問時の『麻雀 立直』)

残されたテーブル筐体には『フラッシュポイント』(セガ・エンタープライゼス/1989)のインストラクションカードが入っている。麻雀ゲームが残りがちな喫茶店にあって、レバーを使うパズルゲームが生き残ったのはちょっとうれしい。

フラッシュポイントの説明カードです

アイスコーヒーを運んできたお店のママに「このゲームは動くんですか?」と尋ねてみると、筐体を管理する業者がいなくなって金庫の鍵が開かないので100円を入れちゃダメとのこと。あらーそうなんですかー…と残念そうにしていると「ちょっと点けてみようか?」と言って電源を入れてくれた。薄暗い店内がここだけぼんやり明るくなり『フラッシュポイント』のロゴが映し出されると思わずオーと声を上げた。

その様子を見て、ぼそっと「やってみる?」とささやくママ。そりゃやりたいですけど100円入れちゃダメなんですよね?
「実は、いい方法を見つけたのよ」とテーブルの上の物をササッと片付けると天板を上にグイと引き上げた。なんと天板をロックする鍵はかかっていなかったのだ。中をゴソゴソとまさぐってサービススイッチで勢いよくクレジットを入れると「終わったら電源切ってね」と告げてカウンターへと戻っていった。店内が薄暗いこともありなんだかイケナイことでもしているような気分になる。

フラッシュポイントのゲーム画面です

『フラッシュポイント』はアーケードゲーム「テトリス」の空前のヒットを受け、1988年にリリースされたテトリスアレンジのパズルゲーム。上から落ちてくる7種のテトリミノをうまく組んで横ラインを揃えると消滅するという基本ルールを踏襲し、ステージ内に最初から配置された光るブロック(フラッシュポイント)をすべて消せばクリアという面クリア型パズルになっている。

『テトリス』は得意ではないが当時それなりにプレイする機会が多かったように思う『フラッシュポイント』を、ルールを思い出しつつ遊んでみる。『テトリス』はとにかくブロックが積み上がらないように一段一段丁寧に消していくのが初心者の基本戦略だが、『フラッシュポイント』は「なるべくラインを消さずにフラッシュポイントだけを消す」のがキモである。ラインを消せば消すほどテトリミノの落下速度が上がっていきすぐに手に負えなくなるからだ。

もっとも1コインで全100面をクリアしようとしたら最高速度の落下を延々としのぎ切る腕前が必要。たまたま喫茶店に入り、たまたまこの席に座って、じゃちょっとやってみっかと思い立っただけの人の手に負えるゲームではない。ほとんどの挑戦者は数コイン投入しただけで限界が見えることだろう。
しかし、限界が見えてなお「もう少し先に行けそうな気がする」という感覚が残り、ついつい100円入れてしまうのが落ち物パズルの恐ろしいところだ。

『フラッシュポイント』はメガドライブ版も開発されていたというが発売されることはなかった。テトリス特需の恩恵で出回りもよかった印象はあるものの、昨今余り見かける機会もなくなったように感じる。それが『居留珈』ではプレイできるというスペシャル感。
それまでジャズが静かに流れる落ち着いた店内にややノーテンキな音楽が混ざり、モニターの明かりに薄っすら照らされた必死の形相の中年がなにやらガチャガチャやっているという軽めの羞恥&半迷惑プレイであることは、この際考えないことにしよう。

そして最大の問題は、筐体の金庫の鍵がないためコインオペレーションが叶わないという点だ。どなたか余ったテーブル筐体の金庫鍵をお持ちの方がいらしたら、石神井公園の『居留珈』にご提供ください。そうすれば『フラッシュポイント』も常時稼働するようになるかも。落ち着いた雰囲気とジャズ目当てでお店に来ている常連さんにとっては少々迷惑かもしれないけど。

居留珈の店内です

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著者紹介
さらだばーむ

目も当てられないほど下手なくせにずっとゲーム好き。
休日になるとブラブラと放浪する癖があり、その道すがらゲームに出会うと異様に興奮する。
本業は、吹けば飛ぶよな枯れすすき編集者、時々ライター。

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