ファミリーコンピュータ『ダブルムーン伝説』

「ダブルムーン伝説」は、1992年10月30日にメサイヤから発売されたファミリーコンピュータ用ロールプレイングゲームです。

角川書店が発行していた雑誌「マル勝ファミコン」で連載していた同名のテーブルトークRPG誌上リプレイが本作のベースとなっています。

“誌上リプレイ”というのは今ではあまり馴染みがないと思いますが、TRPGをプレイした模様を雑誌の企画として文章で再現したものを指します。

実況スタイルのものもあれば、小説のような形式で叙述するタイプもあり、まだTRPGをプレイしたことがない読者はそれを読んで「なんか面白そう！」とワクワクしたものです。
有名なところでは「ロードス島戦記」も誌上リプレイからスタートした作品です。

ゲームとしてはオーソドックスなコマンド選択式のRPGで、ドラゴンクエストに慣れた身としては遊びやすい造りになっています。もっともやや寄せ過ぎ感があるのは、この時代の御愛嬌です。

プロデューサーを務めたのはスーファミ「重装機兵ヴァルケン」「超兄貴」でも辣腕をふるった土田俊郎。
のちに「フロントミッション」「アークザラッド」の企画を立ち上げ、「ファイナルファンタジーXIII」ではバトルディレクターも担当したRPGのゲームシステム構築に定評のある人物です。

雑誌連載による知名度と腕のあるスタッフの強力タッグで勝利が確定したかに見える本作でしたが、思わぬ展開に足元をすくわれます。それが“角川書店内紛”です。

角川書店社長・角川春樹の実弟・角川歴彦が兄に反旗を翻し、1992年10月に出版社・メディアワークスを設立。これに伴い編集スタッフも大挙してメディアワークスへと移籍するという分裂状態に陥りました。

さらに誌上リプレイ「ダブルムーン伝説」の連載を担当していたゲーム製作集団ORGの大貫昌幸が1993年に入って間もなく急逝し、雑誌連載もストップしてしまいます。

予想もしない事態に巻き込まれた本作ですが、「ダブルムーン伝説」は先に述べた「ロードス島戦記」と並ぶテーブルトークRPG黎明期の金字塔にほかなりません。
日本発の瑞々しいファンタジーRPGを存分に堪能してみてください。