東京都練馬区上石神井。
昨年に引き続き、西武線を使う機会が多い。
事務所に籠ってコツコツやる仕事のターンと、出先にしばらく間借りして行う仕事のターンとが交互にやってきて、ここのところ西武池袋線・新宿線沿いで作業をするケースが増えているからだ。
今いる場所は西武新宿線の上石神井駅。
ここで受け取ったモノを西武池袋線の石神井公園駅で渡し、また上石神井へと戻るのが本日の主なミッションだ。
直線距離だと2キロメートルちょい。途中に石神井公園の石神井池があるので少し迂回してグネグネとした道を曲がるのを計算に入れてもせいぜい3キロメートル程度だろう。バスの時刻表を調べたところ20分に一本くらいはありそうだが、ここのところの運動不足を歩いて解消するにはちょうどよさそうな距離に思えた。
幸いなことに大至急の仕事というワケでもないし、メシでも食ってからブラリと行こうか。
こぢんまりとした上石神井通りの商店街を歩き、右に左によさそうなお店を吟味していく。麺類かご飯物か、肉か魚か。ランチメニューの書かれたボードを真剣に見つめながら迷いに迷っているうちに商店街を抜けきってしまった。うーん、引き返してもう一回検討するか、先に進んで探そうか……
あ、そうだ。あの喫茶店はどうだろ。ちょうどここから1本向こうの道にあるし、営業してる時間のはずだ。すぐさま歩く向きを目当ての場所へと変更する。
あった、あった、『喫茶ベル』。
外観は普通の民家のようで飲食店には見えない。以前は店先に電灯看板を出していたのだがいつの頃からか出さなくなった。さらっと書かれた簡素なメニューボードを隠すかのようにスダレが掛かっていて、いよいよお店だかなんだかわからなくなっていた。
扉を開けると、うなぎの寝床のように奥へ細長い店内。左手にカウンターがあるが客席というより半物置のような有様だ。それでも意外……と言っては失礼だがなかなかの客の入りで、満席かと思いきや“例の座席”だけはちゃんと空いていた。
ドッカと腰掛けさっそく色褪せたメニューを拝見。“コーヒー、紅茶、ミルク 280円”“ココア、コーラ、ウィンナコーヒー 330円”と個人店でドトールを下回るお値段を実現している。さらにナポリタンは450円、カレー500円、トーストセットがなんと500円。コロナ前からこの価格は一切変更されていない。これがお客さんが絶えない理由だ。
ナポリタンとアイスコーヒーを頼み、しばし。
運ばれてきたナポリタンは玉ねぎ、ベーコン、ピーマンとシンプルな具材にプラスしてトマトを少量加えて、ほどよくケチャップで炒めた見るからに美味しそうな一皿だ。
そういえば、以前に食べたポテトグラタンも美味しかった。お値段、驚異の350円だ。
普通の人はなんとなく避ける“例の座席”こと、テーブル筐体に入れられたインストラクションカードは『リアル麻雀 牌牌』(アルバ/1985)。スーパーリアル麻雀シリーズのセタが開発した麻雀ゲームで動くか動かないかは不明。よく見ると天板のガラスにびっしりと細かい傷が入っているところから長年のご奉公ぶりが伺える。
テーブル筐体で食べるナポリタンはまた格別ですな。
居心地がよくてしばらくボーッとしたいところだが、お昼のかきいれ時に配慮するのがオトナというもの。食べ終えたらサッと席を立つ。
エネルギーチャージもできたし、石神井川沿いを下っていく形で石神井公園駅に向かう。途中に第61回で訪れた喫茶店『居留珈』の前を通過。ここは外から店内の様子が見えないんだよな。しばらくして駅に到着し、落ち合った人と軽く打ち合わせてから、再び上石神井へと戻ることに。
戻ったらあとはメールを確認するだけなので、一気に気持ちが軽くなる。うーん…とひとつ、大きく背伸びをした。
どれ、ちょっと寄り道でもしていこうか。
ルートを少し外れて石神井川沿いを戻り道とは逆方向に向かう。桜も散りきった並木は新緑の色が濃くなり始めていた。川沿いにズラリ立ち並ぶ都営住宅の昭和から変わらぬ風景が、解放感もあってかいつもより輝いて見える。新しくて綺麗なものは気持ちがいいし心躍るけど、古くて使い込まれたものにもよさはある。うまく融合させながら街を作り変えていって欲しいのだけれど、難しいんだろうか。
都営住宅南田中アパート35号棟は、一階に店舗を設定したいわゆる“下駄履き住宅”になっている。1969年から順次建築されていった長い歴史を持つ建物で店舗の様子もかなり古めかしい。かつてはたくさんあったお店も、今はほとんどシャッターが下りていて、ひときわ寂しさを引き立てている。
そんな中で負けじと営業を続けるのが『久胡商店』だ。
この周辺をブラブラとしていると自転車で行き交う子供が多いことに気づく。石神井公園を中心に子どもたちが遊べる公園や施設が充実しているのは、この街が子育て世代に人気がある理由のひとつだという。そして子どもが多い街には駄菓子屋がある。
店内はこまごまとした駄菓子類が上から下までぎゅぎゅっと圧縮陳列された昭和の商店スタイル。駄菓子だけでなくちょっとした玩具も取り扱っており、子供にとっては夢のような空間だろう。その玩具も最新のものを仕入れるというよりは、在庫を小出しにしている印象で訪れるたびにオッとなる楽しみがある。
入口に重ねられたカゴをひとつ手に取り、駄菓子をバサバサと入れていく。駄菓子屋では想定の倍の駄菓子を買うのがマイルールだ。ちょっと買いすぎたかな? と思ってもせいぜい数百円にすぎないので、遠慮せずその倍はイッていい。このオトナ買いがお店を救うことになると、オトナたるもの自覚せねばならない。
お菓子の詰まった袋をぶらさげて外に出たら、お待ちかねのゲームコーナーだ。
『カーレース』『キャッチボール』『GOLF』の跳弾系10円ゲーム3台と、『ジャンケンマン』(サンワイズ)『大砲でドボーン』(サミー)というキッズメダル機。店頭のわずかなスペースにギュッと置かれている姿が、駄菓子屋としての魅力をさらに引き立てている気がする。また、反対側の自販機横には当たり券入りのミニクレーンもあるし、充実したラインナップだな。
子どもたちは店の前にある公園に集っては時々お店に顔を出し、賑やかに駄菓子を買ったりゲームをしたりして、また一団となっていずこかへと消えていく。私が小学生だった頃の行動となにひとつ変わっていない。このなんでもない日常は、彼らが大人になっても忘れられない思い出に変わっていくに違いない。懐かしく振り返る頃にはこのお店は跡形もなく失くなっていようとも。
夕暮れに染まる団地をボンヤリ眺めていたら陽が沈んできた。さすがに戻らねばならない時間だが、ついでにもう一軒だけ。
西武池袋線 石神井公園駅と西武新宿線 上井草駅のちょうど中間辺り。住宅街にあるコンビニのようなお店が『あかしや 真野商店』だ。
ミニスーパーや個人商店を事業サポートするボランタリーチェーングループ“全日食チェーン”に加盟する地域密着型の商店である。画一化されたフランチャイズコンビニとは異なり、店舗ごとに個性ある商品展開をしているのが特徴で、こちらも店内手作りのおにぎりや惣菜パン、コンビニではまず見かけないカレイフライ、ししゃも唐揚げ、コーン天ぷらといったシブい惣菜を揃えている。
全日食チェーンのマークを見かけるとついフラフラと引き寄せられてしまう私だが、この店のもう一つの特徴は、店頭にゲーム機があることなのだ。
10円ゲームの『カーレース』『キャッチボール』、コナミの『つかんでとるちっち』(1995)に、SNKの小型クレーン機『NEO MINI』(1996)が鎮座している。店舗の外観や取扱商品は違えど、このラインナップは先ほどの『久胡商店』と共通項が多い。リース業者が同じなのかもしれない。
最近になってローソンやファミリーマートにミニクレーンゲームが導入されはじめて話題となっているが、正直アレにはピクリともそそらない。私は断然10円ゲーム派なのだ。駄菓子をじっくり吟味し、お小遣いの残金をどうにかやりくりしながら10円玉を弾く。それこそが駄菓子屋を含めた地域密着店のあるべき姿なのだと思う。
などと、妄想混じりにウットリと眺めていたら陽もとっぷりと沈み、街灯が灯る時間になってしまった。
さすがに寄り道しすぎたかもしれない。
仕方ない。上井草まで歩いて電車で上石神井まで戻るか。
まぁそんな一日があったって、いいじゃない。
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