【第59回】群馬県吾妻郡「鎌原ドライブイン」~「サルガッソウ」

群馬県吾妻郡嬬恋村。

車窓に広がるキャベツ畑。どこまで行ってもキャベツ畑、時々レタス。
浅間山、吾妻山、白根山といった標高2,000m級の峰が大分水嶺となり、火山灰土の腐食土壌は高原野菜の育成に最適な土地となっている。8月の平均気温は30度を下回ることが多く豪熱が連日続いた関東平野と比べると過ごしやすい避暑地なのだが、冬はマイナス15度にも達する群馬県屈指の豪雪地帯でもある。

歳をとったせいか早起きはさほどしんどくなくなってきたが、昨日の長距離移動と夜更かしをしてはしゃいだことが体に堪えているようで、若干車内の空気は重い。はしゃいだといってもただ談笑しただけなのだが、この頃は若い時分と同じ感覚でいたら痛い目に遭うということを様々な局面で感じるようになった。これを踏まえて、次にこのメンツでの旅行の機会があったらもう少しルーズなスケジュールで臨まねばと心に刻む。

などと言いつつ、せっかくここまで来たしココもアソコも……と結局鼻息荒く欲張ってしまう気もする。
せめて事前に参加者全員と相談して行程を決めればいいものを、ぼっち散歩と同じ感覚で好き勝手に行き先を決めてそれをみんなに伝えぬまま、ミステリーツアーさながらに連れ回すのはいかがなものか。大人の分別で誰一人文句を言ってこないのをいいことに……と車窓を流れるキャベツ畑をボンヤリ眺めながら思った。

今日の目的地である、北軽井沢『サルガッソウ』に行くことは全員が了承しているし、たぶん今向かっていると思ってるであろうことは会話の端々からも感じられる。しかし実際はその前にもう一軒別の場所に連行されることをドライバーを除いた2人は知らない。

鎌原ドライブインの写真その1です

到着したのは、嬬恋村にある『鎌原ドライブイン』。
本連載の第5回「オートパーラーまんぷく」、第54回「オートパーラー上尾」でも取り上げた、主に自動車やバイクで訪れる憩いの場である“オートパーラー”なのだが、前記2箇所と異なるのは、2024年4月にオープンしたばかりの新しいオートパーラーという点だ。

モータリゼーションが進んだ1964年の東京オリンピック以降に登場し、1980年代をピークにその数を激減させたオートパーラーは、施設や機械の老朽化と経営者の高齢化に加えて後継者不足が深刻な影を落とす。そこに各種固定費の増加が重くのしかかり、いまや全国でも数えるほどしか遺されていない貴重な施設になりつつある。
しかしコロナ禍での非対面式販売のメリットと、天井知らずの人件費削減を両立するオートパーラーは再び注目されてもいい業態ではないだろうか。

中に入ってみるとアストロシティが2台に、『セガラリーチャンピオンシップ』ツイン筐体(セガ/1995)、『ポップンミュージック16 PARTY♪』(コナミ/2008)がズラリ。
アストロは外装が木目調にカバーされ落ち着いた装いとなり、周辺の自然環境に合わせたウッディな雰囲気がマッチしている。
客が自ら電源をオンオフするスタイルのようなのでスイッチオン。
1台はインストラクションカードの通り『沙羅曼蛇』(コナミ/1986)が起動。いまや高値で取引される貴重な基板がこんな場所(失礼)で稼働しているとは胸アツじゃん。

鎌原ドライブインの写真その2です

もう1台はなにかな~……え、『侍日本一』(タイトー/1985)?
これはシブい。左右から群がる敵を侍が日本刀で撫で斬りにしていくカネコ開発のアクションゲームだ。
実にトリッキーなタイトルチョイスに度肝を抜かれるが、実はここのゲームはこれから行く『サルガッソウ』が設置したもののようだ。ここはいわばサルガッソウ出張所とでも言うべき施設なのでどうしても来てみたかったのだ。

嬬恋村に移住した地域おこし協力隊の方々が発案し開店したというこちらには、オートパーラーの王道、ハンバーガー自動販売機もあるのでドライブ途中に一息つくのにピッタリ。アストロシティのゲームも入れ替わるようなので、ぜひまた訪れてみたいスポットだ。

鎌原ドライブインの写真その3です

さて。
そこから8kmほどの距離にあるのが、この旅の最終目的地『サルガッソウ』だ。
北軽井沢にはめちゃくちゃ大型ゲーム機を所有している人がいるらしいという風の噂を聞いていた。折良く、昨晩泊まった『もちづき荘』に予約を入れた2022年7月にそのことをハタと思い出し、開放していないのを知りながら行ってみたことがあった。

別荘地・軽井沢の食料基地だったスーパーマーケット跡地を倉庫代わりにしており、訝しみながらも窓の外からそっと覗いてみたら、そこには膨大な数の筐体が眠っていた。あまりの凄さに大興奮してしまったことを覚えている。
それ以来ずっと訪問する機会をうかがっていたのだが、2023年の夏についに訪れることができたのだった。それが本連載の第10回での『群馬県富岡市、長野県佐久市』の旅の翌日の話だったのだが、そのことはなんとなく書きそびれたままとなっていた。今回はそのモヤモヤを晴らすための旅でもあった。

サルガッソウの写真その1です
▲2022年7月のサルガッソウ

サルガッソウの写真その2です
▲2023年7月のサルガッソウ

事前に連絡をしてお邪魔させていただいたので、入口で主催の方にご挨拶をしてから中へと入る。サルガッソウは1プレイいくらのコインオペレーションではなく、入館チケット制となっており、オンラインチケットか当日にカウンターで入館料を支払うことでフリープレイとなる。1日たっぷり遊んでも3000円というのはオトクすぎる。

サルガッソウの写真その3です
サルガッソウの写真その4です

所狭しと並べられているのは1980年代から2000年代の大型筐体ゲームが中心で、『スペースハリアー』(セガ/1985)、『パワードリフト』シットダウンタイプ(セガ/1988)、『ラッキー&ワイルド』(ナムコ/1993)、『ワイルドパイロット』(ジャレコ/1992)、『救急車 EMERGENCY CALL AMBULANCE』(セガ/1999)などバラエティに富んだラインナップ。

まずは、大型ではないが特殊筐体といってもいい『オトメディウス』(コナミ/2007)をプレイしてみる。1レバー3ボタン+タッチパネルという操作系のシューティングゲームで、キャラ育成やハイスコア集計などがe-AMUSEMENT対応のオンラインサービスとして提供されていた。一時はそれなりに稼働していた印象だがいまやほとんど見かけなくなった。それもそのはずアーケードでは2011年にオンラインサービスが終了している。割と最近のゲームという印象があったが14年も経過していたのだ。

サルガッソウの写真その5です

その後も次々とゲームを遊んでいく。思い出のある1台もあれば、これまでプレイする機会のなかったゲームもある。コインオペだと一回プレイして気に入らなければそれっきりというのがほとんどだったが、ここでは何回コンティニューしても定額なので、そのゲームの魅力がより伝わりやすい。

1コインのプレイ時間をできるだけ短時間で終わらせ、満足と「もう少し…」という物足りなさを同時に与えつつ客の回転数を上げなければならないというのがアーケードゲームに課せられた難題であり宿命だ。繰り返し遊ぶことでツボがじんわりとわかってくる快楽遅効性のゲームだってあるワケだが、お小遣いをどうにかやりくりしながらゲームに挑んでいた身としてはその楽しさがわかるほどにやり込めるハズもなかった。
その点を気にすることなくグッと奥深く入り込めるのが定額入場料制の大きなメリットだろう。
反面、100円をかけて挑む緊張感が減衰し雑なプレイとなりがちな一面もある。とはいえこれは意識の持ちようでどうにでもなることだ。

サルガッソウの写真その6です

サルガッソウはゲームセンターではない。
娯楽産業において歴史的意味を持つ貴重なマシンを展示公開しリリース当時のままに稼働することを体感してもらう、いわば体験型私設博物館だ。
愛好家にとっては思い出の追体験を、初めて触れる層にはその当時の技術やそこに込められた熱量を感じてもらうことができるタイムカプセルのような存在といえるかもしれない。

主催の方が言っていた「集めたゲームはちゃんと動くように修理がしたいし、せっかく動くようになったならばそれを当時のように遊んでもらいたい」という話が印象に残った。
一般開放エリアに置かれたゲーム機はどれもきちんとメンテナンスが施されており、その影には運営スタッフの地道な努力と苦労がある。
バックヤードには、日々のインカムに悪戦苦闘していた時期を終えいつか再起動するための準備を整えながらジッと修理される日を待ちわびる数多くのゲーム筐体がいる。
そう考えただけで、なにやら胸にグッと込み上げてくるものがある。

そんな健気に頑張るゲーム機たちにたくさん出会えた旅になった。

サルガッソウの写真その7です

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著者紹介
さらだばーむ

目も当てられないほど下手なくせにずっとゲーム好き。
休日になるとブラブラと放浪する癖があり、その道すがらゲームに出会うと異様に興奮する。
本業は、吹けば飛ぶよな枯れすすき編集者、時々ライター。

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