今回はDay5のSEGA AGES昔話の続きです。
2004年冬。SEGA AGES 2500シリーズのプロデュースを引き継いだ僕は、AM2研に代わる新たな開発会社を探していた。そのとき前任者に見せてもらったのが、PS2で動くアーケード版『セガラリー・チャンピオンシップ』だ。とにかく完成度が高く、AM2研で移植した『ファイティングバイパーズ』にも匹敵するクオリティだ。これは凄い。今からすぐに売ってしまいたい。しかしシリーズ発売ラインナップに『セガラリー』の予定は無かったはずだ。一体、このソフトはどこからやってきたのだろう?
前任者の説明によると、実はこのソフト、開発中のPS2向け『セガラリー』最新作(後の『セガラリー2006』)に付属する「オマケ」用として新規で作られたものだという。なんと贅沢な特典だろうか!
↑PS2版『セガラリー2006』には、初代の移植版が同梱されていた。
「すごいだろ?」
僕が驚いているのを見て、彼はさらにもう1枚CD-Rを差し出して言った。
「実はこんなのもあるんだ」
今度はなんとアーケード版の『獣王記』と『SHINOBI 忍』の2作がPS2で遊べるディスクだった。サウンドは鳴らないし、コントローラのボタン配置もめちゃくちゃだったが、最後まで通して遊ぶことができた。こちらもオリジナル版を完璧に再現された高いクオリティの移植だ!
↑アーケード版獣王記とSHINOBI 忍
『獣王記』も『SHINOBI 忍』も、1980年代にリリースされたアーケード用システム基板「システム16」用に作られたゲームだ。つまりこれを開発した会社には、システム16を再現できる移植技術を既に持っているということなのだろう。
その上この『セガラリー』も『獣王記』&『SHINOBI 忍』も、どちらも同じ会社の手によるものなのだというではないか。その会社こそ、今ではみんながよく知っている、あの有限会社エムツーだった。
僕が最初にエムツーの名を耳にしたのは、『サクラ大戦』のWindowsとドリームキャストへの移植を彼らが担当していた時だが、まさかこんな移植技術を持ったところだとは知らなかった。
↑ドリームキャスト版『サクラ大戦』
そういえば社内の知り合いから、エムツーのとんでもない話を聞かされたことがあったのを思い出した。
まだセガサターンが現役ハードだった1990年中盤頃のことだ。当時Windows向けに大ヒットしていた、とあるビジュアルノベルソフトを大層気に入ったエムツーは、版元の許可も取らないまま、セガサターンに移植してしまったというのである。ソフトがほとんどできあがったころになって、ようやく版元へ相談に行ったらしい。思い立ったら、まず先に手が動いてしまうタイプの人たちなのだろう。セガサターン末期ということもあってか、このソフトは結局お蔵入りしてしまったわけだが、なるほど今回もそのときと同様に、先に動くところまで作ってからセガへ持ってきたんだなと僕はぴんときた。聞けば案の定、まずは『獣王記』のディスクを持ち込んではきたものの商品化の目途が見つからず、逆にセガから『セガラリー』の移植をオファーしてみたところ、今僕が見た通りの、素晴らしいクオリティで仕上げてきたということらしい。
これこそSEGA AGES 2500にうってつけの会社ではないか。早速エムツーと話をすることにした。
エムツーの代表取締役である堀井さんと初めて会ったのは、暮れも押し詰まり、ビッグサイトで大きなお祭りが開かれていた最中の、大鳥居本社の応接室だった。この度新生SEGA AGES 2500シリーズを立ち上げること、忠実移植路線を進めようと思っていること、そのための開発会社を探していることを僕がざっくばらんに伝えると、堀井さんからは「是非やらせてください!」と熱のこもった言葉が返ってきた。
堀井さんが言うには、エムツーではさまざまなセガハードの移植技術を研究中で、すでに見たシステム16とMODEL 2に加え、既にセガ・マークⅢはほぼ完成しており、メガドライブについても完成間近だということだった。さらにシステム16以外のアーケード基板も将来的には対応するつもりだという。僕は内心「うん、これならいける!」と確信し、新生シリーズの第1弾として作りたいゲームの提案を具体的に伝えた。それは『スペースハリアー』を、改めて忠実移植版としてリリースすることだった。
シリーズ内で既にリメイク版がリリース済みだった『スペースハリアー』を再び発売することについては、社内でも反対意見はあった。それでもシリーズを自分の手でリニューアルするにあたり、あえて『スペースハリアー』を真っ先に選んだ理由は、このゲームこそセガの代表作と呼べるタイトルであり、かつリメイク版購入者の評価が特に低かったからだ。仕切り直しのタイミングでリベンジを行うことが、最もファンへの声に応えることになるのではないか。これからのSEGA AGES 2500は、ただの廉価ソフトで終わらない、移植の「決定版」にしていきたい。僕は堀井さんにその狙いを伝えた。
新生SEGA AGES 2500は、1本でそのゲームのことがすべてわかるソフトにしたい。ゆくゆくはセガ全集のようなシリーズに育てていきたいと考えている。そのために、今回の場合、過去セガハードでリリースされたすべての『スペースハリアー』のソフトを網羅してPS2に移植したいのだ。すなわち、オリジナルであるアーケード版の『スペースハリアー』だけでなく、マークⅢ用移植バージョン、マークⅢとメガドライブで出た続編2作『スペースハリアー3D』と『スペースハリアーⅡ』も加えた全4本をまとめて収録するのだ。
↑アーケード版『スペースハリアー』
↑マークⅢ版『スペースハリアー』
↑マークⅢ版『スペースハリアー3D』
↑メガドライブ版『スペースハリアーⅡ』
同じようなものばかりをあえて収録するのには理由があった。僕の考える新生SEGA AGES 2500シリーズは、当時のファンが初めて遊んだ頃の楽しかった思い出を呼び起こしてもらえるソフトにしたいと考えていた。それには、当時のゲームそのままを遊んでもらうのが一番である。一方で、ひとくちに『スペースハリアー』と言っても、移植や続編などたくさんのバージョン違いがあるので、人によって最も思い出深い『スペースハリアー』は同じではない。そこで、可能な限りすべての『スペースハリアー』を収録して、より多くの人の思い出に寄り添いたいのだった。移植版には移植版の、続編には続編の、オリジナル版と違う手触りを堪能できてこそ、初めて『スペースハリアー』についてのすべてを知ることができるのではないか。僕はそんなソフトを「決定版」と呼びたいのだった。
ただしこの仕様は、開発会社にとっては歓迎されない話だ。ソフト1本の移植で済むところを、4本収録したら単純に4倍の作業量(手間)がかかることになるからだ。僕の思い切った提案に対しても、堀井さんは表情ひとつ変えなかった。「いいですね! わかりました。マークⅢ以外はこれからになりますが、やれると思います!」と、逆に力強い言葉で承諾してくれた。続けて「……でも、スペースハリアーボードはこれから作らないといけませんね。メガドライブも未完成だし、第1弾は、せめてほぼ完成しているシステム16のゲームが良かったな」ともつぶやいた。「大丈夫です。無駄にはなりません。SEGA AGES 2500シリーズは毎回2本同時に出したいと考えているので、もう1本はシステム16用のタイトルから選びましょう。つまりエムツーさんは第1弾として、2本のソフトを同時に作って下さい」と僕は笑って答えた。
こうして有限会社エムツーという強力な開発会社が、SEGA AGES 2500の最初のパートナーとして加わることが決まったのだった。
打ち合わせを良いかたちでまとめられた僕は、最後に欲張って、もうひとつ隠していたアイデアを堀井さんへ投げかけてみた。
「今回シリーズをやり直すにあたって、忠実移植だけでなく、リメイク路線も何本か試したいと思っているんですけど、堀井さんは興味ありますか? 例えば今回の『スペースハリアー』も、移植版だけじゃなくて、『スペースハリアーⅡ』のリメイク版、それも『もしスペハリⅡが当時アーケードで出ていたら?』という「歴史のif」のようなバージョンがつくれたら最高だと思うんですけど、どうですかね?」
僕のこの日何度目かにして最大の無茶振りに対して堀井さんは、戸惑うどころかその言葉を待ってましたとばかりに切り返した。
「流石に今回のスケジュールと予算では不可能ですけど、そういうのは凄く興味あります! あと、どうせ苦労して作るんだったら、『スペハリⅡ』じゃなくて、『ファンタジーゾーンⅡ』のアーケードリメイクのほうが作ってみたいですね」
その言葉は、僕にとってこの打ち合わせで最もときめく言葉だった。確かにその通りなのだ。『スペースハリアー』も『ファンタジーゾーン』も、80年代中期のアーケードゲームの大きな進化と変革を示した、セガの2大シューティングだ。ところが他社のライバルゲームであった『グラディウス』や『ダライアス』、『R-TYPE』などの続編が、次々とアーケードでリリースされたにも関わらず、セガのゲームはアーケード向けの続編が開発されることはなかった。どちらも続編は家庭用ゲーム機向けにのみ開発されたからだ。しかし僕を含む当時のファンとしては、当時の最高技術で作られたアーケード版を見てみたかったという想いが根強くあった。それを実現するのが僕の目指すところだった。
ではこの2つのゲームがアーケードで出ていたとしたら、どんな姿になっていただろうか? 3Dシューティングの『スペースハリアー』の続編が、アーケード向けになったときの姿は、誰でもすぐに思い浮かべることができるだろう。メガドライブにはないズーム機能で、ダイナミックに迫ってくる敵キャラクターの姿を想像すればよいからだ。だが『ファンタジーゾーンⅡ』はどうだろうか? 続編で追加された要素の多くが家庭用向けに特化されていたものだったため、アーケード向けに開発された場合の姿を想像しにくい。完成形がわからないだけ、そこにはロマンがある。
↑アーケード版初代『ファンタジーゾーン』と家庭用に開発された『ファンタジーゾーンⅡ』
つまり堀井さんの回答は、容易に想像のつく『スペースハリアー』アーケード続編よりも、得体のしれない『ファンタジーゾーンⅡ』リメイクに挑みたい、そのロマンこそ追い求めたいと、そこまでのことを考えているからこその返事なのだ。以心伝心というか、馬が合うというか、これから始まるSEGA AGES 2500シリーズの航海に先立って、思ってもみないほどのベストパートナーと出会えたことに、僕はわくわくが止まらなかった。
「仰る通りです。是非シリーズを成功させて、いつかその企画を実現させましょう!」
この時に語られた夢は、それから4年後に発売されるシリーズ完結作で実際に叶うわけだが、それはまた別のお話。ともかくまずは記念すべきシリーズ第20作目となる『スペースハリアーⅡ ~スペースハリアーコンプリートコレクション~』の開発話を次回から語ろう。
(つづく)
©SEGA
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