山梨県北杜市。
友人から「車を出すからどこかに行こう」という話が持ち上がった。夏になると急にどこかに行きたい欲求が生まれてくるようで、同じような経緯で2023年の夏は群馬県に行った時のことを連載の第10回に書き残している。今読むと実に内容のうっすいゲーム紀行で、そういやこのくらいの薄味でお届けするつもりでスタートした連載だったなと思い出した。
ともかく、旅行プランをあれこれ揉んでいるうちにあれよあれよという間に参加者は4人となり、めでたく8月末の決行と相成った。
行きたいゲームスポットをGoogleマップを見ながらピックアップしていくうちに、気がつけばドライバー泣かせのハードな旅程が組み上がっていた。これだから運転の苦労を知らないペーパードライバーというのは手に負えない。
もっとも今回の参加メンバーは全員がゲームを通じて知り合った友人であり、それぞれに指向と熱量は微妙に異なるものの現役のゲーム好きだ。その点で気は楽だった。
早朝、私の自宅に全員集合して府中国立ICから中央自動車道で一路西を目指す。土曜日ということもあり渋滞していたがお昼すぎには山梨県の小淵沢ICで高速を降りることができた。当初は小淵沢IC近くの食堂ですぐにお昼ごはんの予定だったが、この時点で2時間ほど遅れており、営業時間内に滑り込めるかどうかが際どい状況になっている。
到着してみると案の定“準備中”の札がぶら下がっていた。車もまだ多数停まっており、いましがた準備中になったことは明白だ。
一応お店の方に声をかけてみたら、売り切れの料理が出てきたので営業終了時間前にストップすることになったらしい。あら~残念ですぅ~とリアクションをとりつつも店内を素早くサーチすると、入口右手すぐに目当てのものがあったので、恐縮ながらと写真を1枚だけ撮らせていただいた。
ナムコのコンソレット18などに使用された淡いグリーンラインのコントロールパネルが付いたテーブル筐体セット。黄色いレバーボールとボタンとがよく映えている。1P・2Pボタンが潰してあるということは、筐体側にスイッチがあるということか。プレイで使用するボタンがめり込んで戻らなくなっているようで、メンテナンスは行われていない様子がわかる。
インストラクションカードのタイトルは隠れて見えないが、クレジット表記の年号から推測するに『SUPERワールドスタジアム』(ナムコ/1991)のようだ。
目当てのブツの確認こそできたものの一軒目から予定通りにいかない展開に先が思いやられるが、小淵沢駅前の食堂で昼食をサクッと済ませ、次なる目的地の清里へと向かうことにした。
1980年代にペンションやタレントショップなどが立ち並び高原ブームを巻き起こすもバブルが崩壊すると次々にお店が閉店していき、近年は“ファンシー廃墟”などと揶揄される状況にあった高原地帯が“清里”だ。
実際のところは一過性のブームが去ったに過ぎず、現在も観光シーズンには多くの人が訪れ、観光客を受け入れる各種施設もしっかりと更新され続けている。落ち着いた雰囲気を楽しめる避暑地としていまでも抜群の知名度と存在感を放っているのだ。
そんな山梨県北杜市高根町清里の一角に、今年2025年3月にオープンしたのが『nakano museum HOTEL』。ホテルとしては一日一組限定という庶民にはちょっと敷居が高いプレミアムな宿泊施設なのだが、併設のミュージアムは入場料制なのでひと安心。
この施設を作ったのが「モダンペット」などを手掛けた広告デザイナーの中野シロウ氏。趣味で集めた玩具、雑貨、古着、そしてゲーム機などを一同に集めた私設ミュージアムなのだ。とはいってもその展示数は約3万点と相当な規模になっている。
入口付近のショーケースからものすごい物量の展示がされており、日本とアメリカを中心としたグッズのチョイスにはさすがのデザイナーセンスを感じる。テーマ性のある展示というよりは、緩やかにリンクする思考と感性の配置がコレクター心に心地よく響いてくる。
奥へと進んでいくとまずはピンボールが1台。
ウィリアムズの『TRAVEL TIME』(1972)だ。フィールド構成はオーソドックスながらも完成度が高く、フリッパーの間に設置されたボールキッカーの存在がプレイヤーにとっては救いとなる遊びやすい台だ。ちなみにほぼ同型で『SUMMER TIME』という機種もあり、こちらは生産数わずか30台という激レアモノである。
その先の広くなった空間には『SUPER CHEXX』(ICE)と『Mini Champ Hockey』(こまや)が並べて置かれており、日米のホッケーゲームの違いを体感できる。周囲には見たこともないアメトイや古着が飾られ、まさにコレクターとしての中野氏の脳内イメージを垣間見ているようだ。なんというか率直に言えば羨ましい。
壁側にはピンボールの『バック トゥ ザ フューチャー』(データイースト/1990)『スターウォーズ』(スターン/2017)、エレメカの『ミニドライブ』(関西精機/1959)、『山のぼりゲーム』(1981)『タッチアクション』(1978)『合体ロボ☆V(ファイブ)』(1981)といった、こまやの人気作などをプレイすることができる。
今日の行き先をまったく知らされていなかった友人たちもこのミュージアムには質と量の両面で圧倒されたようで、賑やかにワイワイと楽しんでいる。こういう場所を一緒に楽しめるというのは、基本ぼっち気質の私が長らく彼らと友人を続けてこれた大きな理由ではあるなーとしみじみ感じてしまう。
壁にズラリと貼られたピンボールのバックグラスを前に談笑する友人らを尻目に、とりあえず人のいない空間を先に撮影しておこうとひとり先へ先へと進んでいく。友人と来ている時くらい歩調を合わせればいいものを、別の目的が乗っかってることでなにか純粋性が失われている気がしないでもない。
2階は展示中心のエリア。
おお、国産ピンボールの『ウルトラスパーク』(日本娯楽機製作所。日本展望娯楽説も?)が。ウルトラマン(ジャック)がウルトラショットを放つバックグラスのイラストやフィールドのウルトラ怪獣、そしてMATマークなどから「帰ってきたウルトラマン」(1971)がモチーフなのは間違いないのだが、正確な発売年は不明。
バックグラスにウルトラセブンが描かれた「ウルトラアタック」という同型のフリッパ―マシンが犬山市の日本ゲーム博物館にあるが、こちらもいろいろ詳細がわかっていない(下の写真は2014年に日本ゲーム博物館で撮影)。セブンは1967年放映なのだが、何故か「ウルトラアタック」にもMATマークが描かれており(セブンは「ウルトラ警備隊」)、どちらが先に製作されたのかあるいは同時期にリリースしたものなのか……謎は深まるばかりだ。
その隣にはおもちゃ屋さんに置かれていた巨大ゲームボーイのオブジェとバーチャルボーイの試遊機がお出迎え。任天堂ファンなら家に置いてみたいと夢想するこの2台が並ぶ様に写真を撮る手にも思わず熱がこもる。その周辺に配置されたグッズもひとつひとつが興味深く、時間さえあればもっと丁寧に見学していきたいところだ。
さらに奥にはスターウォーズを中心としたアメリカンSFタイトルのコーナーも。見るからに貴重そうなモノとわりと近年の玩具とが混在しており、グッズの価値には重きをおかずあくまで中野氏自身の興味と見た目の楽しさにフォーカスした展示に、このミュージアムのコンセプトが垣間見える。
1階にはスターン版スターウォーズピンボールがプレイアブル展示されていたが、ここ2階にはセガ版とデータイースト版が置かれているのも心憎い。スターウォーズをモチーフとしたピンボールは他にもウィリアムズ版やらトリロジーやらマンダロリアンやらさすがのIP長者っぷりで多数リリースされているが、ここなら一通りは網羅していそうな気すらしてくる。
そんなこんなで、予想はしていたがじっくり見るにはやはり時間が足りない。展示物の入れ替えがあることを期待しつつ、またの来訪に期することとしよう。
現在展示されているゲーム機を含むアイテムは、中野氏が所有するモノのごく一部であるという。他にどんなピンボールやエレメカを所有しているかは、つい最近更新されたばかりのオニオンソフトのYouTubeで紹介されている。世の中にはまだ知られていない恐ろしいコレクターがいることを実感できる動画は必見。
また「八ヶ岳デイズ別冊 清里ブランディングvol.1」(東京ニュース通信社)というムックにもこのミュージアム開場の経緯なども含めて写真が掲載されているので、興味のある方はどうぞ。
今日の宿はここから直線距離だと30kmほどだが、八ヶ岳の峰々に阻まれ直線で進むことができない。峠をぐるりと大きく迂回することになり時間もそのぶんかかってしまう。現在の時刻は本来のチェックイン時間である17時の30分前。さらにその途中で、今夜の宿での二次会を充実させる食料品を買っておく必要もあった。
山梨から県をまたいだ長野県南佐久郡にある『ナナーズ 上川店』は周辺の登山やキャンプのための買い出しに重宝するスーパーマーケットだ。店内にはキャンプをするためにやってきた学生と思しき集団がそこかしこで賑やかに食材を吟味していた。我々も若い者に負けじとカゴの中に酒や乾き物を放り込んで対抗する。
レジでお会計を済ませ車に戻ろうとする友人らをチラと見てから、私一人だけがそそくさと抜け出しスーパーの2階への階段を急いで駆け上がる。
ちょっとしたイートインスペースとなっている2階の壁際には、ポツンと1台だけテーブル筐体が置かれていた。だいぶ前にGoogleマップで発見してはいたがまだ健在だったか! よーしよし。
電源が入っており画面ではマリオが飛び跳ねていた。インストカードは海外版の『VS.SUPER MARIO BROS.』。テーブル筐体のコンパネの根本あたりからケーブルが伸び、ハドソンマーク“ハチ助”の入ったファミコンコントローラーが取り付けられている。レバー操作よりもファミコンコントローラーの方がプレイしやすいだろうとの配慮なのだろうが、ちょっと場違いなスーパーマーケットにしてはなかなかの芸が細かさだ。
マリオの隣には駄菓子屋でおなじみの「ジャンケンマン ジャックポット」も。ピンク色の筐体が可愛らしく、広めの休憩所空間でやや浮いている感じもあるがこれはこれで悪くない佇まいを醸し出している。
いろんな角度から眺め、写真をバシャバシャと撮りまくってから、たぶんトイレにでも行ったと思っているであろう友人らの元にしれっと戻った。つくづく団体行動に向かない男である。
到着が遅れる旨の電話を宿に入れると、着いたら風呂に入る前にすぐ夕食ですからねと軽く釘を差された。旅というものは大体が予定通りにはいかないんだよね……などとブツブツ屁理屈を唱えながら直線距離で32km、迂回すると60km超の宿へと急ぐことになる。
結局、メシを食いっぱぐれるワケにはいかないのだ。
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