千葉県八千代市ゆりのき台。
JR西船橋駅から東葉高速鉄道に揺られること17分。自宅からだと1時間40分ほどかかって到着したのは八千代中央駅。
東京メトロ東西線に乗る方ならなんとなく聞き覚えがあると思うが、実際そこまで行ったことあるかと問うと急激に対象者が減りそうな東葉高速鉄道の終点・東葉勝田台駅の2駅手前が八千代中央駅だ。
私自身初めての下車だが、周囲をキョロキョロしただけで特にこれといった感慨もなく散歩をスタートする。
意外にアップダウンのある丘陵地を南に進んでいき、やがて住宅街が途切れてくると辺りはどんどんのどかな風景へと様変わりしていく。新川の支流である桑納川を越えると、もう江戸時代くらいとそんなに違わないんじゃないかな……というようなシブい景色が広がっていた。
千葉県八千代市といえば梨が名産で他にもイチゴやブルーベリーなどの果物や、人参、ほうれん草といった多種多様な野菜も栽培する農業大国として知られる。ちなみに今年決まった八千代市のキャッチコピーは『ほどよし。やちよし。』だそう。何事も過剰すぎず住むには程よい町といった感じは景色からもふんわり伝わってくる。
市とか町というよりのんびりした風情の農村といった場所から左右を鬱蒼とした竹林に囲まれた一本道を進む。こんなところに目当ての場所があるのだろうか? 熊はいないまでもタヌキやキツネくらいなら出てきそう……と心配になってきた頃、竹林の一角に拓けたエリアが突如出現した。
手作り感を満載した背の低い建物の屋根の上には『まぼろし堂』と書かれた看板が掲げてあるのが見える。
吸い寄せられるように敷地に足を踏み入れると、突然無数のシャボン玉が吹き出し宙を舞った。それは幻想的でありコミカルでもあるウェルカムセレモニー。一瞬、自分がどこで何をしているのかの感覚を失い、しばし立ち尽くす。
我に返って店内に入ってみようと入口を探すも、どこから入るのかよくわからない。まさか目の前にあるこのピンクのドアなわけないよな。しかしどう見渡してもコレしかないようなので、怪しいピンク色のドアの把手を恐る恐る回してみる。内部はなんだか薄暗い通路になっていた。壁には貼られた駄玩具がブラックライトで不気味な光を放つ中を進んでいくと、急に懐かしの駄菓子屋にたどり着いた。
なるほど、いわゆるタイムスリップ演出だったんだろうか。
お、10円ゲーム発見。
硬貨投入口はガムテープで塞がれているが、雰囲気づくりはバッチリ。ひとまず駄菓子を大量に購入してからお店の方にひと声かけ写真を撮らせてもらった。
再びタイムスリップで現代に戻ってから建物のあちこちを見て回る。
うどん・そばの懐かし自販機は、看板こそ本物を使用しているがその他の部分は手作りで構成されている。かと思えばハンバーガーの自販機はちゃんと本物(ただし自動販売機としては非稼働)。
増築により複雑さを増した建物はやはりこちらもどこが入口なのかまったくわからず、まるでミステリーハウスのような楽しさがある。あるいは子供の頃に夢想した手作りの隠れ家というのはこんな感じだったかもしれない。
カプセルクレーンの脇には見覚えあるミニアップライト筐体が。
貼り紙をめくってみたら、キッズメダル機『カンフーキッド』(コナミ/1993)が姿を現した。その奥でホコリを被っているのは『お宝ロコモ』(サミー/1999)だ。
建物の裏側に回ると駅の待合所のような雰囲気のスペースがあり、キッズメダル『ニューとん』(サクセス/1989)が置かれていた。メダルのみ使用できるようだが、そのメダルをどこで入手するかは不明。
その隣には、あまり見たことのない箱型の筐体にレバーと3ボタンのコントロールパネルが付いたビデオゲーム機。インストラクションカードには「61種類のゲームが…」とあるのでどうやらエミュ機のようだ。こちらもホコリが積もっていて動くようには見えない。よく観察するとデルの液晶モニタが妙な具合に配置されてるし……。どれも活用すればそれなりに集金できそうだし、ちょっともったいない。
周囲にはファミコンソフト『たけしの挑戦状』『マイティボンジャック』『高橋名人の冒険島』などのパウチしたチラシが貼られている。他にも『妖怪道中記』『魔界村』『沙羅曼蛇』『ファイナルファイト』のアーケード版チラシもあり。タイトルのチョイスに店主の趣味を感じる。
いずれも結構なお点前のゲームに満足したところで、名物である“幻のたこ焼き”でも食べてみることにしようか。
たこ焼き自販機を模して作られた非対面型販売所の前に立ち、ブザーを押すと中にいる人が対応してくれる。これがコロナ禍を乗り切ったアイディア……!
しばらくボケーッと待っていると、隣の“コーヒー自販機風”から「これどうぞ~!」と声がかかってコーヒーを一杯サービスしてもらった。本物の自販機には到底できないサービスに心が暖かくなる。
出来上がったたこ焼きとコーヒーを持ち、ホーロー看板がベタベタ貼られたバスの待合所風の椅子に腰掛ける。包みを開けばソースとおかかがたっぷりかかってて実に旨そう。
最初こそ少し面食らってしまったが、お客さんを楽しませようとするサービス精神が随所に溢れていて、小さいながらも上質なテーマパークにいるような感覚になっていた。
また次回訪れて、この場所が跡形もない更地になっていたとしても「カッパに化かされた!」で済みそうな“まぼろし”感があるのもいい。
そういう儚さも味わいのうちなのかもしれないと、ソースでジャブジャブのたこ焼きをほおばりながらボンヤリ思った。
さてと。
Googleマップを開き、この後の道順を確認。
八千代中央駅からここまでおよそ3.5km。元の駅には戻らずに北総線の千葉ニュータウン駅を目指す。
その道のりはおよそ7kmとここまでの倍だ。すっかり浮かれてキャッキャしている間に日が傾いてきているし先を急がねば。
駅から離れた産業道路にありがちな歩道もないのに大型トラックがビュンビュン駆け抜けるスリリングな抜け道。車が渋滞で長い列を作る街道。周囲と比較してここだけ妙に整備されまくったバスじゃないとまず到達できない大学のある住宅地。見渡す限り広々とした畑に囲まれてるわりに交通量がやけに多いあぜ道など、都会では到底味わえない変化に富んだ景色は飽きることがない。見知らぬ土地というのはいつだって新鮮な喜びを与えてくれるのだ。感動するほどの絶景などなくとも自分の足でそこに行き、目で見て、耳で聞き、全身で感じる心の栄養のようなものが満ち満ちている。
そんな心地よい“散歩ハイ”にウットリ包まれながら日の暮れた印西市をワシワシと進んでいく。
午後6時を回る頃、ようやく北総線・京成成田空港線をまたいで本日の最終目的地に到達した。イオンモール千葉ニュータウンの少し離れたエンジョイライフ棟にあるドン・キホーテ。その自転車売場の隣の一角がこぢんまりとしたゲームコーナーになっているのだ。
イマドキのゲームコーナーらしくクレーンゲームを主力としながらも、セガのアストロシティが1台、コナミのウィンディⅡが1台、テーブル筐体は任天堂『スペースフィーバー』(1979)の純正台が1台。イオンに置かれてたラインナップとしては実に渋くて通好みではないか。
壁には基板のタイトルが書かれた紙が貼られている。
「悪魔城ドラキュラ」「エイリアンシンドローム」「ピストル大名の冒険」。
うーむ、これまた実にシブい。
この日は『スペースフィーバー』とウインディⅡのゲームは調整中でお休みだったが、アストロでは『VS.スーパーマリオブラザーズ』が稼働中。
今日のシメゲームはコイツで決まりだ。
八千代中央駅から千葉ニュータウン駅まで数多くのエリアを突破してきた自分と画面上でピーチ姫の元に急ぐマリオとが微妙に重なる。
1-1をクリアして花火が上がると気持ちのよい疲労感が押し寄せ、次の面で私とマリオの小さな冒険は実にあっさりと終わりを迎えた。
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