【第54回】埼玉県上尾市「オートパーラー上尾」

埼玉県上尾市。

北上尾駅です

今日は2025年7月27日。現在時刻は午前6時半を回ったばかりだ。ここのところ連日の猛暑が続き、イヤな湿気はあるもののさすがに朝のこの時間の気温はまだ控えめ。ただ、日が昇るにつれてどんどん暑さは増していくに違いない。この時期の日中の散歩はあまり気が進まない。しかし、今回はやむにやまれぬ理由があった。

突如としてSNSに激震が走ったのは昨日のことだった。
なんと、埼玉県最後の自販機ドライブインである『オートパーラー上尾』が閉店するというのだ。悲報を聞き、思わず天を仰いでしまった。
この連載の第5回(2023年8月)で、埼玉県久喜市「オートパーラーまんぷく」を取り上げた。その時もSNSで閉店を知り早朝に駆けつけた後の2023年7月29日、多くのファンに惜しまれつつ「オートパーラーまんぷく」はその生涯を終えたのだ。
そのわずか2年後のまったく同じ季節のまったく同じ状況で、今度は『オートパーラー上尾』が……! 暑すぎる夏は営業意欲すらも奪い去ってしまうとでもいうのか?

実は以前から、本連載の担当者から『オートパーラー上尾』を取り上げるよう言われていたが、まぁまぁそのうちね~くらいで軽く受け流していた。まさか「まんぷく」の時と同じく、閉店を知ってから駆けつけることになるとは“閉店商法”との誹りを受けても仕方がない。まったくもって赤面の限りだ。
しかしそれでも、記憶と記録には残しておきたい。最後にこの目に焼き付けておきたい。

7月8日に閉店の初報をポストしていた方がいたようだが、7月30日深夜という閉店日時が一気に拡散したのは7月26日になってすぐのことだ。26日(土)は珍しく友人とメシを食う予定を入れていたため来訪は難しい。翌27日(日)は自宅作業を予定していたので、残る平日4日間のいずれかに行くしかない。月末の慌ただしい時期にコレ無理すぎる!
いろいろ検討した末、26日の友人とのメシまでに自宅作業をギュギュっと詰め込み、27日をこじ開けることにした。これだけ情報が拡散されたからにはかなりの混雑も予想されたので、開店時間の午前7時に到着するよう調べたら、始発電車に乗るしかないことも判明した。

オートパーラー上尾の写真その1です

オートパーラー上尾は意外にもと駅チカで助かった。以前は友人の車で行ったのでそんな事には気づくはずもなかった。
駅前から15分ほど歩くと、やがて大宮バイパス沿いに看板が見えてくる。一番目立つのが“GAME”の文字だ。かつては大きな幹線道路沿いにもゲームセンターが多数存在したものだが、寂しいことにすっかり見かけなくなってしまった。看板の真下に立ち“GAME”の文字を眺める。うむ、なんとも頼もしい。

開店の7時まであと少し。車も停まっておらず、まだ開いてないかとドアを押してみたところなんなく中に入れた。どうやら自販機コーナーの方にはお客さんがいるようで、少し早めにオープンした様子だ。

オートパーラー上尾の写真その2です

入って右手がゲームコーナー……だったスペース。窓から朝日が差し込み幾分明るく見える姿に廃墟感はあまり感じられない。ただ、一台一台をじっくり観察していくとうっすらホコリが積もり、長らく稼働していないことが見てとれた。

オートパーラー上尾の写真その3です

奥の方にはパチンコ・パチスロ機や麻雀ゲーム機が並べられ、こちらは電源を入れればいまにも動き出しそうな感じ。その中には私の好きな『ボール雀三国志』(SHOKEN)が2台紛れ込んでいるのにグッとくる。麻雀の役を揃えていくパチンコ、いわゆる“雀球”アレンジのメダルゲームだ。ちなみにSHOKENは埼玉県羽生市に本社を持つ地元企業でもある。

オートパーラー上尾の写真その4です

そして右奥の方にエアロ、アストロ、ブラスト、バーサスといったセガの歴代シティ筐体が雑然と置かれていた。一部に『鉄拳』『KOF』『ガンダムvsガンダム』などインストラクションカードが残されている台もあるが、おそらくはすでにもぬけの殻だろうと思われた。椅子が上部に積み上げられた筐体もあり、いつ頃から稼働していないのか不明な、切ない有り様をさらしていた。

オートパーラー上尾の写真その5です

参考までに上の写真は2018年に訪れた時に撮影したもの。台の配置は今よりも整然としているが、時刻の関係もあり窓からあまり光が差し込まず、暗い廃墟のように見えた。店内に客は少なくてひっそり静まり返っており、なにか見てはいけないものを見てしまったような妙な罪悪感が残ったことを覚えている。写真を見比べてみると置かれている筐体は現在と変化なく、この時から7年間はただ静かに時が流れてきたようだった。

オートパーラー上尾の写真その6です

かつては汎用筐体だけでなく大型筐体や音ゲーもあったというが、いまは『ポップンミュージック』が一台だけポツリと残されていた。電源スイッチが前面に引かれた上に貼り紙までしてあるため、この台だけいまでも遊べそうな佇まい。
店内で遊ぶことができるのは、『麻雀格闘倶楽部』(コナミ)と『テトリス』(セガ)、そして『3000 IN』のエミュ基板だけ。いまビデオゲーム中心のゲームコーナーをやろうと思ったら、だいたいこれで事足りると言わんばかりの稼働に苦笑い。

オートパーラー上尾の写真その7です

入口を挟んで反対側にその『麻雀格闘倶楽部』やエミュ機を配し、その奥には初代UFOキャッチャーとユウビスのNEWラッキークレーンが置かれていた。UFOキャッチャーには使い途が不明な不気味な仮面や玩具、そしてラッキークレーンにはカプセルに入った女性の下着が景品として入れられている。実に由緒正しい、まったくそそらない景品ラインナップではあるが、オートパーラーのプライズたるものこうであってほしい。

そしてオートパーラー上尾で一番の目玉が自動販売機コーナーだ。
中でもうどん・そばの自動販売機とトーストサンドの自動販売機はツートップだろう。若い世代にとっては、古めかしいのに健気に働き続ける機械はどこか新鮮に映るのかもしれない。

オートパーラー上尾の写真その8です

私にとっては“ひとり外食の原点”とでもいうべき存在だ。
子どもの頃はひとりで飲食店に入って食事をするなど考えたこともなかった。町中ではなく少し外れたところにあったコインスナックは、学校の先生や補導員の目を気にすることなく安心してゲームに接することができる自分だけの隠れ家だった。
当時すでにレトロ感のあったうどん・そばの自動販売機は、お店で食べるより遥かに安く、店員を介さないため注文のハードルも低く、友達同士でワイワイ食べることもできる家以外での初めての食事。ひとときオトナになったような気分を味わえたものだ。

100円玉を4枚投入してボタンを押す。ニキシー管表示でカウントダウンされる待ち遠しいワクワク感。カウントゼロになると数瞬の間をおいて押し出されてくるうどんの器にはヒタヒタにダシがはられており、熱くて持つことができない。
熱くない持ち方を模索しながらどうにかテーブルまで運ぶ。
あ、割り箸と七味を持ってこなきゃ。
テーブルに箸はなく、自販機の中程にある置き場に隠されているのだ。
「俺はちゃんと知ってるぜ」という優越感をほのかに感じつつ、うどんを一口すする。

オートパーラー上尾の写真その9です

初めて食べた時にはその旨さに驚き、やがて慣れてくるとただ小腹を満たすために食べた。その後成長するごとに様々な美味しいものと出会い、舌は肥えていった。しばらくはその存在すら忘れ、見向きもしなくなっていたチープな天ぷらうどんがいまはたまらなく美味しい。あの時味わった原点の喜びが時を超えて蘇ってくるようだ。

続いてトーストも食べようかと思ったが、止めておいた。
おそらく今日これからたくさんのお客さんが別れを惜しみにやってくるはずだ。きっと補充が追いつかず売り切れしてしまうことだろう。
いずれ思い出になるこの味は、より多くの人に堪能してもらうほうがいいに決まっている。

じゃあ最後に、なにかゲームをやって帰ろうか。
上尾といえばアルファ電子(ADK)だ。本社も開発本部もJR上尾駅から歩いていける場所にあったという、ここはアルファ電子と上尾に敬意を表して『スーパースティングレイ』(1986)でいってみるか。
うん、こういう時『3000 IN』もなかなか役に立つじゃない。

「スーパースティングレイ」発売の1986年にもおそらくここは存在したはずだ。アルファ電子と社名変更後のADKのゲームタイトルも数多く入荷したことだろう。

オートパーラー上尾の写真その10です

ADKは2003年頃に事業停止したそうだがなんとなく気になって調べてみたところ、事業廃止の届け出を行っておらず、その上で長期にわたって登記が行わなれかったため、2025年1月29日をもって登記官による登記記録の閉鎖、すなわち“みなし解散”の処理がなされていた。

つまりADKの登記上の事業廃止(解散)は今年2025年ということになり、奇しくもオートパーラー上尾と同年にその歴史を閉じることになるのだった。
上尾の二大企業が今年同時に終焉を迎えるとは、なんともドラマチックな幕切れだ。
(注・オートパーラー上尾は法人としての事業を停止するということではないと思われますので念の為)

そうはいってもできればしぶとく生き残ってほしかった。
いつかまたこの街を訪れた時、もうそこにオートパーラー上尾はなく、アルファ電子があったことを誰も知らないのでは哀しすぎやしないか。
今年は昭和100年にあたる年らしいが、いろいろ複雑な気分が交錯する2025年はまだまだ続くのだった。

オートパーラー上尾の写真その11です

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著者紹介
さらだばーむ

目も当てられないほど下手なくせにずっとゲーム好き。
休日になるとブラブラと放浪する癖があり、その道すがらゲームに出会うと異様に興奮する。
本業は、吹けば飛ぶよな枯れすすき編集者、時々ライター。

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