【第50回】愛知県一宮市「ゲームセンター千秋」

愛知県岩倉市石仏町。

高速バスで東京から名古屋にはるばるやってきて、テーブル筐体がある喫茶店“筐体喫茶”をできるだけ多く巡ろうと奮闘するも、ゴールデンウィークという厚い壁に阻まれことごとく空振りに終わる。仕方なく方針を変更し、絶対営業しているであろう1つ目の切り札を切ることにした。

地下鉄鶴舞線の庄内通駅から北へと向かい、上小田井駅で名鉄犬山線に乗り換える。そのまま北名古屋市、岩倉市と市境をまたぎ、10分ほどで到着したのが石仏(いしぼとけ)駅。
どうもこの辺りはかなり市境が入り組んでいるエリアのようで、もう少し進むと一宮市、さらに江南市とめまぐるしく変化する。県境・市境ファンとしては非常に楽しい。

改札を出る頃にはだいぶ日も傾いてきていた。完全に沈んでしまう前になんとか目的地にたどり着きたいところだ。
街道沿いをわっせわっせと20分ほど歩くと見えてきたのは、なんだか妙な具合に錆びた背の高い看板。暗さもあってなにが書いてあるかまったく読めない。さらに近づくと建物の上部に“GAME”という文字が見えた。“Drive in”“Auto snack”との文字も書かれている。どうやらここが一宮市の24時間営業ゲーセン『ゲームセンター千秋』のようだ。

ゲームセンター千秋の外観です

店内に電灯は点いているものの全体に薄暗く、言い方は悪いが廃墟の一歩手前といった外観。本当に営業しているのか少し不安になりながらも入口を覗き込んでみる。お客さんも店員さんも誰もおらず、ただ静まり返っていた。
やってる? やってない? いやでもドアが開いてるんだからやってるんだよねと判断して足を踏み入れる。

手前にビリヤード台が数台並んでおり、左右を見渡すと『麻雀格闘倶楽部』と奥の暗いところにパンチングマシンが。んー……『ソニックブラストマン』(タイトー/1990)かな? もちろん電源は入っていない。

ゲーム機の写真その1です
ゲーム機の写真その2です

『麻雀格闘倶楽部』の隣には古めのスロット機……いや、これ『アルカノイド』(タイトー/1986)と『テトリス』(セガ/1988)か!  テトリスの台はアストロシティのコンパネを加工して取り付けたビデオゲーム改造機のようだ。使い込まれた様子がかっこいいが、これも電源は入っていなかった。

仕切りの奥の方は天井の電灯も点いておらず、ほぼ日も沈んでしまったこの時間だと真っ暗でよく見えない。そもそも営業しているエリアなのかどうかもよくわからない。だが、ドアは閉められていないのでそーっと覗き込んでみると、そこには衝撃的な光景が広がっていた。

ゲーム機の写真その3です
ゲーム機の写真その4です

細長い部屋の中にはパチスロ機や8ラインスロット、ビンゴゲームやクレーンゲーム機などが静かに佇んでいる。そのラインナップは新しめのところを見積もっても90年代だろう。ビリヤードコーナーから漏れてくる灯りを頼りに目を凝らすと、ここ数年は誰も遊んだ形跡のない埃の積り具合が見てとれる。
壁には「スロットコーナー17時点燈」との紙が貼られていた。夕方からの営業なの? いまは17時を全然過ぎちゃってますけど。
さらに奥の隅の方は倉庫のようにうず高く箱が積まれ、その下には寂れたテーブル筐体がポツリと一台。天板に貼られたインストラクションカードは『ジャンボウ』(SNK/1987)だ。おいマジかよ。

壁に貼られたアーケードゲームのポスターも時代を感じさせるものばかり。『ダンジョンズ&ドラゴンズ タワーオブドゥーム』(カプコン/1994)『鉄拳』(ナムコ/1994)『デッドオアアライブ』(テクモ/1996)『まじかるで~と ドキドキ告白大作戦』(タイトー/1996)と、かなり色褪せボロボロになってはいるが、おそらくこのゲーセンが熱かった時代がそのまま真空パックされたような塩梅だ。

ゲーム機の写真その5です
ゲーム機の写真その6です

饐えたような埃の匂いが鼻をつき、街道沿いをひっきりなしに車が行き交うのになぜか静かに感じる。その暗さも相まって本当にタイムスリップでもしてしまったんじゃなかろうかという錯覚を覚えるほどだった。この感覚は、当連載の第5回で訪れた埼玉県久喜市の「オートパーラーまんぷく」での体験を彷彿とさせる。ゲーム歴をいうならばコインスナック育ちの私にとってはまさに原体験に触れるようなスポットだ。自然と目頭が熱くなってくる。

調べたところによると、ビリヤード側にあるゲームはプレイできるらしい。24時間営業ということはゲームが置かれたエリア面積が制限されているはず。おそらく奥の部屋は倉庫扱いにしているのだろう。昔は全フロアを使用し、24時間営業ではなかったことがなんとなく想像できた。

ゲーム機の写真その7です

『ビートマニア complete MIX 2』(コナミ/2000)でもやってみようかしら……と電源を探すもよくわからない。ならばとアルカノイド台をあちこち見たが電源スイッチらしきものはない。一台ごとに電源をいれる方式なのか、それとも店内のどこかに集約したスイッチがあるのか。説明書きが貼られているわけでもない。謎解きゲームをやってるみたいだ。
テトリス台を見てみると、上部になにやらスイッチが取り付けられていたのでオンにしてみると並びのアルカノイドも一緒に立ち上がった。おー、謎が解けた。
せっかくなのでアルカノイドをやってみるが、まだ興奮冷めやらぬフワフワとした状態でのプレイが上手くいくはずもなくあっという間にプレイは終わってしまい、また静寂が訪れた。

ゲーム機の写真その8です

ちなみにここに入った時、唯一電源ONの状態で稼働していた『麻雀格闘倶楽部』を発売する株式会社コナミアミューズメントの本店は、ここ愛知県一宮市にある。ゲームセンター千秋からは直線距離で約7kmほどの場所だ。
この連載では第43回「神奈川県座間市」でコナミ東京テクニカルセンターを、第36回「大阪府豊中市」でのコナミ創業の地を訪れている。なぜだかコナミとは不思議な縁があるのかもしれないなと考えるとワケもなく嬉しい。

名残は尽きないが、こちらもまだ旅の途中だ。
外に出てみるととっぷりと日が沈み、行き交う車もヘッドライトを灯している。振り返ると外側に向けた電灯のひとつもなく本当の廃墟のような佇まい。アーケードゲームが熱かった時代を経て、いまはあの頃の空気をありのままに伝えるタイムカプセルのような貴重なお店だな、としんみり眺めてから駅へと向かった。

ゲームセンター千秋の外観その2です

名鉄犬山線で名古屋市街に戻りながら、次なる行動の策を練る。まず、ゴールデンウィーク真っ盛りでホテルの宿泊費が軒並み特別料金となっていたため、ネットで宿を予約することは断念していた。カプセルホテルも全滅だし、こういう時は24時間営業のスーパー銭湯に泊まるしかあるまい。個室ではなくともデカい風呂と夜露がしのげる寝床があればどうにでもなるのが、気楽な一人旅のメリットだ。

この日のゲーム歩きはこれにて終了。一応、遠征時のお約束『トイレッツ』(セガ/2011)の捜索(第25、26回)も行い、一箇所現存を確認したりもしたが特筆するほどでもない。
名古屋市南区にあるスーパー銭湯に投宿し、お風呂をたっぷりと堪能する。結局3万歩も歩いてしまったので脚をしっかり揉みほぐしておこう。どうせ明日も歩きまくるに決まっている。
お風呂に入ったことでどっと疲れが出てもはやグロッキー寸前だが、最後にスパ銭のゲームコーナーをチェック。指差し確認ヨーシ! これで長かった1日もおしまい。

ただ、スーパー銭湯にたどり着いたのが遅すぎたせいで、リラクゼーションルームの寝床を確保しそこね、本当にそこらの床で寝るハメになってしまった。これで本当に疲れが取れるのかはなはだ不安だが、とりあえずお休みなさい。

ゲーム機の写真その9です

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著者紹介
さらだばーむ

目も当てられないほど下手なくせにずっとゲーム好き。
休日になるとブラブラと放浪する癖があり、その道すがらゲームに出会うと異様に興奮する。
本業は、吹けば飛ぶよな枯れすすき編集者、時々ライター。

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