【第49回】愛知県名古屋市「コーヒーハウス HOT JAM」~「GAME BOX Q3」など

愛知県名古屋市中村区。

バスから降りて、ぐーっと大きく伸びをする。
東京新宿を出発しておよそ7時間弱で名古屋駅前に到着。尋常じゃない渋滞のため到着予定時刻から1時間ほど遅れていた。
今年のゴールデンウィークは名古屋に行くことに決めたのだが、昨今なにもかもが値上げをしており、節約できるところは切り詰めていこうと旅費をケチって高速バスを選択したのが間違いだった。

ともかくギュウギュウのバス車内から解放されたことに安堵しつつ、ふらふらしながらも早速一軒目の目的地を目指す。高速バス車内にはトイレがなく、最近とみに胃腸が弱くなった自覚があるため昨晩から飲食を控えていたが、これでようやく食べたり飲んだりできるというワケだ。
天気も上々。少し汗ばむくらいなので、まずはアイスコーヒーで一息ついて今日の旅程を再確認することにしよう。

名古屋駅の太閤通口から歩くこと数分。到着したのは喫茶店『COFFEE HOUSE HOT JAM』だ。駅からそう遠くもないし、駅前の喧騒から程よく離れて落ち着いた感じなのもいい。
店内をサッと見渡し速やかに目的の席に座る。店員さんからあと30分で閉店ですがよろしいですか、と聞かれるがもちろん承諾。どうやらギリギリ間に合った。

HOT JAM外観です

今回の旅の主な目的はテーブル筐体のある喫茶店、通称“筐体喫茶”巡りだ。
この連載でも何度も訪れてきた“筐体喫茶”だが、数年この未開拓ジャンルをいろいろ調査してきて、日本で最も密集しているエリアは東京でも大阪でもなく、ここ名古屋で間違いないという結論にたどり着いた。

調査中のGoogleマップのピンをご覧いただこう。この緑色のピンは過去、現在のいずれかにおいてテーブル筐体が設置された喫茶店である。その数は名古屋市全域に渡っており実に驚異的な密集度だ。

グーグルマップ名古屋周辺です

愛知県は喫茶店数が全国2位、人口10万人あたりの店舗数で全国3位を誇る喫茶店王国。飲食店全体に対しての喫茶店の割合が全国平均25%前後なのに対し、愛知県はなんと驚異の41%を誇る。1世帯あたりの喫茶代支出金額も全国1位となっており、モーニング文化の浸透具合から見ても、愛知県民がいかに喫茶店を愛してきたかがわかる。

1960年代以降、狭い土地でも個人経営で出店しやすかったのが喫茶店で、名古屋の地は首都圏などと比べ土地代が安かったことも開業ラッシュに拍車をかけた要因とされる。
1979年に爆発的なブームとなった『スペースインベーダー』(タイトー)がゲームセンターのみならず、街なかのあらゆる隙間を“侵略”していく過程で、喫茶店もその対象となった。短期間で収束したインベーダーブームではあったが、そもそもテーブル筐体はテーブルとしての性能は十分に満たしており、ゲームが動こうが動かなかろうがさほど大きな問題ではなかったことが功を奏し、現代まで生き残ったお店が見られるというわけだ。インベーダーで喫茶店へのテーブル筐体設置が促進され、のちに麻雀ゲームが登場し暇つぶしに最適ということで浸透していく。
繁華街にあって全体の売り上げが高く、一見客の割合が多い喫茶店ほどテーブル筐体撤去率は高くなる。端的に言えば、テーブル筐体をどけて新たな普通のテーブルを導入するコストが見合うかどうかなのだろう。

ちなみに“筐体喫茶”ではなく“ゲーム喫茶”という呼び名の方がわかりやすいんじゃ? という方もおられるかもしれない。おそらくはお若い方なのだろうとお見受けします。80年代を通過してきたベテラン世代からすると“ゲーム喫茶”とはポーカーや花札などのビデオゲーム機を使用した違法賭博が行える喫茶店のことを意味する。繁華街を中心に営業していた公然賭博施設・ゲーム喫茶は摘発されたりされなかったりする社会の闇を体現する存在だったが、さすがに近年は表立って営業する店は壊滅したかに見える。もっとも地下に潜っただけという話もチラホラ……。
そんなワケで、警察でもマスコミ発表でも使用されマイナスイメージの強い“ゲーム喫茶”という言葉は、ゲーム業界、喫茶店業界両者から忌み嫌われる言葉となってしまった。そこで本連載においては“筐体喫茶”という座りの悪い造語でジャンルとして括ることとした。

『COFFEE HOUSE HOT JAM』にあるテーブル筐体は全部で2台。
コントロールパネルは取り外され、樹脂製の板でカバーされている。本体と天板ガラスの間にはクリスチャン・ラッセンの絵が挟み込まれ、あくまで私は普通のテーブルですよと主張してくる“セカンドキャリア組”だ。ラッセンというあたりが平成バブル期をくぐり抜けてきたのだな~と思わず遠い目になる。

テーブル筐体の写真その1です
テーブル筐体の写真その2です

15時30分閉店ということなのであまりのんびりもしていられない。アイスコーヒーで急速チャージも完了したことだし次に向かうことにしよう。事前に調べた感じだと、名古屋の喫茶店の閉店時間は概ね午後早めの印象だった。モーニングのために早開きのお店が多いからだろうか。現在時刻が15時を回っていることを考えると、今日行けそうな喫茶店はかなり少なくなりそう。滞在時間も30分程度になるだろうと覚悟は決めてきた。それならやはり多少高くとも新幹線でもっと早く到着しておくべきだったのだ。

お店を出て、Googleマップを見ながら北東へと向かう。土地勘がないため距離感が掴みきれないが、ここから北東方面に目的地に刺したピンが連なっている。なんか歩けそうに見えるけど……いやホントは遠い? どこから攻めるべきか迷うくらいに行きたいスポットが点在しているし、とりあえず片っ端から行ってみるしかないか。

ゲームボックスQ3外観です

まずは、歩き始めてほんの数分のところにある『ゲームボックス.Q3』を覗いてみる。
外観からしてトラディショナルないい感じのゲーセンだ。店内も90年代をビシビシ感じさせて素晴らしい。この場所は経営が変わりつつも90年代からずっとゲームセンターであり続ける貴重なお店。コロナ禍での経営危機をクラウドファンディングで乗り切り、様々なジャンルの大会が開かれるなど、地域のゲーマーを中心に愛され続けている。
 『パズドラ バトルトーナメント』の台を改造した『ミスタードリラーG』を1プレイ。駅チカなのに50円ゲーセンというのが嬉しい。この雰囲気は好きな方にはとても刺さると思うので、名古屋を訪れた際にはぜひ寄ってみていただきたい。

ゲーム筐体の写真です

線路をくぐって名古屋駅の反対側に出て、名古屋城の西側を縦断するように歩いていく。情報によるとその途中にあるイオンモール内にはnamco則武新町店があり「80×20 PLAYBAR」というレトロと最新アミューズメントが融合した施設があるとのことだったのだが、行ってみたら何の変哲もない普通の“namco”になっていた。どうやら今年2月にリニューアルしたばかりの模様。一歩遅かった。

このnamco則武新町店から名古屋市営地下鉄鶴舞線の浄心駅までの間に、いくつか気になるお店が点在していた。だが、順番に「閉業」「閉業」「閉業だか休業日だかわからない」「リニューアル」「跡形もない」「閉業だか休業だかわからない」と、6連続の見事な空振り。そこから続けて「営業時間外」「休業日」ときたもんでいい加減心が折れはじめてきた。訪問する時間が遅すぎたのは確かだが、ゴールデンウィークに来たのがそもそもの間違いだったのか……。

そんな具合に名古屋城の北側まで歩いてきたが、ここらでいいかげん休みたい。すがるような気持ちで次に訪れたお店は……おお、やってる!
入口脇のガラスショーケースにハンバーグ、スパゲティ、丼ものなど多彩なメニューの食品サンプルが並べられてた『コーヒー レストラン かかし』は、街のファミリーレストランのようなお店だ。

かかし外観です

なかなかの広いフロアにはお客さんがぼちぼち。パッと見ただけでテーブル筐体がいくつか見えてワクワクする。席はどこでもいいとのことなので、一人客でも座りやすそうな奥の方に陣取る。

着席したのは『麻雀カフェドール』(ダイナックス/1993)。デモ画面には女の子が出てくるが脱衣ではなく、岩谷テンホーが関わってるのにあまりそれを推してくるでもない(wikiの『岩谷テンホー』にもなにも書かれていない)不思議な麻雀ゲームだ。ダイナックスは地元名古屋の企業で、1996年に中日本リース(現在は中日本プロジェクト)に吸収合併されたあとは事業部のひとつとして運営されている。
よく見るとこの台、コインシューターが付いている1P側とは反対位置に画面が向いている。それにインストラクションカードは、同じダイナックスではあるが『麻雀ベガス』のものだ。この状態でも電源がオンになってるとはなかなかの適当具合。

テーブル筐体の写真その3です

店内にテーブル筐体が何台あるか数えてみたところ、密集させずに点々と6台設置していた。バラけすぎてて全部は確認できなかったがどうもすべて麻雀みたいだ。やはり地元企業のダイナックスのタイトルが強いんだろうか。また、こちらのお店は24時間営業だそう。大手ファミレスやコンビニですら24時間営業をとりやめはじめているというのにものすごいバイタリティではないか。真夜中にフラリと訪れてダラダラと麻雀ゲームをプレイしてみたい。

かかし店内です
かかしの食事です

しばらくすると、本日最初の食事となる“どて丼”が到着した。どて煮は豚モツや牛すじを赤味噌ベースのタレで煮込む名古屋の名物料理。それをご飯の上にかけたのがどて丼でしっかりと煮込まれたモツと甘辛の味付けでご飯がグイグイ進む。ようやく名古屋に来たんだなという実感がじんわりと湧いてきた。

さて、ここからが思案のしどころだ。
名古屋城より南側に行けばたくさんの筐体喫茶がある。しかし時間的にはもう営業が終了する頃だし、いまご飯を食べたばかりでまた喫茶店というのは少々ダルい。
こういうタイミングでもないとなかなか行けなさそうな場所……うん、ちょっと遠そうだけどあそこ、行ってみるか。

『かかし』を出ると庄内通駅へと向かい、再び地下鉄鶴舞線に乗ることにした。
その途中に一軒、テーブル筐体があるというお店に寄ったが、案の定閉まっていた。

 この旅、間違いなく前途多難である。

地下鉄駅の写真です

 

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著者紹介
さらだばーむ

目も当てられないほど下手なくせにずっとゲーム好き。
休日になるとブラブラと放浪する癖があり、その道すがらゲームに出会うと異様に興奮する。
本業は、吹けば飛ぶよな枯れすすき編集者、時々ライター。

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