【第10回】群馬県富岡市「大島鉱泉」~長野県佐久市「シャドウ」

群馬県富岡市。

友人たちと、レンタカーを借りて旅行に行こうじゃないかという話になった。
普通運転免許は持っているが、かれこれ15年くらい一度も運転をしておらず、とても危なっかしくてドライバーを任せられないというワケで、自分はナビ役を仰せつかった。
当初3人で出かける予定だったのだが、そのうちのひとりが直前でコロナに倒れ、もうひとりの友人とのサシ旅になった。
じつは昨年も同じ3人で長野県に行こうとしたところ、ひとりがコロナに罹っていたりする。つくづく3人がそろわない旅となる運命にあるようだ。

ちなみに、昨年宿泊した宿には「レトロゲーム部屋プラン」というものがあった。
温泉宿の部屋の広縁にテーブル筐体が置かれていてプレイし放題という、夢のようなプラン。
……あ、“広縁(ひろえん)”ってわかります? 和風温泉旅館の部屋の窓側にある、テーブルとソファが置かれた縁側みたいなところ。風呂上がりになんとなく座りたくなるあの場所にテーブル筐体が置かれていると想像していただきたい。
時刻は夕刻。大きな窓から見える一面の緑濃い木々。聞こえてくるのはやかましいほどの蝉しぐれの声、そして時々UFOの出現サウンド。眼の前のテーブル筐体で規則的な動きを繰り返すインベーダーたち……『スペースインベーダーPartⅡ』(タイトー/1979)の画面は、夏の日差しで見づらかったなぁ……。

広縁の写真です

あのエモい体験をもう一度、と調べてみたら、どうやらあのプランが無くなってしまったようだった。宿の公式サイトにはインベーダーの“イ”の字もない。
ひょっとしてあまり評判が良くなかったのかしらんと心配になったりするが、あんな素敵な体験はなかなかできるものではないので、ぜひまた復活を期待したい。

上信越自動車道を富岡ICで下りたのがちょうどお昼時。まずは腹ごしらえということで、事前に調べておいたよさげな食堂に行ってみる。
「餃子 ふじ久」は、麺類から丼・ご飯物などを各種揃えた、住宅街にポツンとある食事処だ。しかもどれも安い。看板メニューの餃子を3人前頼んで友人とシェアし、あとはそれぞれミソラーメンにライスを添えるという布陣で臨むことにした。
見渡した店内は、もはやテーマパークのような昭和一色に彩られた世界。土曜の昼間からタイムスリップ気分を味わいながらキョロキョロしていると注文した品がやってきた。

ラーメンと餃子の写真です

まず、ビジュアルが強すぎる。餃子もミソラーメンも絶品のお味……とまではいかないが「これこれ!」と膝を打つ過不足のないちょうどよさ。まさに最高の土曜の昼メシというやつを引き当てたのだった。

さて今回。
一緒に旅する友人は長い付き合いのゲーム好きであるとはいえ、私が普段やっている地味極まりないゲーム散歩に付き合わせるのはさすがに申し訳ない。そこで、普通のドライブ旅行を装いつつ、合間合間にさりげなく“ゲーム”を挟みこんでいく方式を取ることにした。
たまに、散歩に一緒に行ってみたいという奇特な友人知人が現れることがあるのだが、正直なところ躊躇してしまう。やってるんだかやってないんだかも知れない喫茶店に足を運び、やってたとしてもだいたいは喫煙可の煙モクモクの中で食事をし、食べ終わったら次の喫煙可の喫茶店で画面の点かないテーブル筐体を前にアイスコーヒーを飲み、さらにやりもしないのにボーリング場のゲームコーナーを巡ったりする、しかもすべての行程が徒歩だったりとか、もはやまともな感性で楽しめるとは到底思えない。
さらに言えば、そんな益体もない散歩を駄文にしたためたものを連載エッセイとして掲載するBEEPはだいぶイカれている。
注:イカれてません(BEEP担当より)

そんな淀みきった心の声をきれいに洗い流すべく、次は銭湯にやってきた。銭湯は地方ごとに作りや流儀が異なっており、旅の楽しみのひとつだ。
訪れた富岡市郊外にある大島鉱泉は、施設こそ全体に年季が入っているものの、そのロケーションを含め素晴らしく気持ちがいい銭湯だ。
いいメシを食い、いい風呂に入る。旅はそれくらいで十分満足できる。

銭湯の外観です

続いての目的地は、いよいよお待ちかねのゲームポイントだ。
国道254号線を下仁田町方面に進んでいくとやがて峠道になっていく。その途中にあるドライブインにテーブル筐体が現存しているとの情報を確認しにいこうというワケだ。
山道をどんどん登っていくと、左手にシブい佇まいの木造建築が現れた。この辺りの名物である下仁田こんにゃくが食べられるこのドライブインに目的のものがあるハズ……なのだが、なんとなく嫌な予感。

ドライブインの外観その2です

車を降りて入口まで行ってみると「定休日」と書かれた看板が。
木曜定休って言ってたじゃん……GoogleMapのウソツキ! と叫ぶ声も虚しく周囲の山に吸い込まれていく。
せっかくここまでやって来たので諦めきれずに窓に張り付くようにして中を覗き込み、薄暗い店内を右から左、左から右へとゆっくりサーチしていくと、奥の方にある給水器が乗せられたテーブルがどうやらテーブル筐体のようだ。

ドライブイン店内の写真です

ワールドベンディングの『インベーダーウォーズ』(1979)は、超ヒットゲーム『スペースインベーダー』(タイトー/1978)のコピー品で、タイトーが製造販売禁止を求めて訴えを起こしたという歴史的一作だ。
このお店の雰囲気から察するに、おそらくは当時からずっとここにあり続け、ゲーム機としての役目を終えた後もテーブルとしてしっかり給水器を支えてきたのだろう。なんともグッとくるストーリーじゃないか。

ゲーム筐体のコンパネ写真です

不思議なもので、触れることはできなくともその存在を確認できただけでそれなりに満足できてしまう。次回訪れる機会があるかどうかは怪しいものだが、半世紀近くここにいたのならばまた会うこともあろう、と後ろ髪を引かれつつ先を急ぐことにした。

そのまま国道254号線を走り、群馬県から長野県佐久市に抜ける。佐久市役所の斜向いに店を構える喫茶店「シャドウ」に到着。

シャドウの外観です

木製の重い扉を開け店内に入ると、通りに面した大きな窓があるのになぜか店内は薄暗め。それもそのはず電気が点いていない。もちろんお客さんはひとりもおらず、お店の人も見当たらない。これはまさか定休日……とまたしても嫌な予感が頭をかすめた時、奥から店員さんらしき女性が出てきて明かりを点け、好きなお席にどうぞと勧めてくれた。ホッと胸をなでおろす。
ぐるりと店内を見渡すと、奥の壁際にテーブル筐体が1台あるのが見えた。しかし、そこには書類とバッグが置かれ、なにやら作業をしている形跡があったため、その隣の席に陣取る。
ここまでなかなかのロングドライブで疲れてきていたので、ここは甘いものでもとウインナーコーヒーを注文。助手席に乗ってるだけなのだが、やはり遠出はそれなりにしんどい。水を飲んで一息ついてから、改めて観察をはじめる。
麻雀コンパネを付けただいぶ使い込んだ様子のテーブル筐体。インストは『麻雀四姉妹 若草物語』(マボロシウェア/1996)だ。ナグザット開発で後にセガサターン版も発売されたアニメーション麻雀ゲーム。アニメ調の麻雀ゲームが似つかわしい雰囲気のお店でもないかな、と周囲を眺めてみた。壁の色調や床板の感触、天井から下げられた照明、籐製の椅子など店全体から昭和がほんのりと香ってくる。

テーブル筐体の写真です

ホイップが別盛りになったウインナーコーヒーをゆっくり味わいながらすっかり落ち着いてしまったが、あまりのんびりもしていられないのが旅の忙しないところ。
お会計の際に、お店のママと思しき女性に少し尋ねてみたところ、以前は2階で営業していた雀荘とともにお店はてんてこ舞いだったそう。卓から余ったお客さんのために麻雀ゲーム機を置くようになったという経緯のようだ。やはりこのお店にも、知られざるストーリーはいろいろありそうだ。お礼を述べてお店を後にする。

シャドウ店内の写真です

余談だが、この後に行った宿はネット予約するときにゲームコーナーがあるところを選んだ。ところが行ってみるとどこを探しても見つからない。
宿の人に聞いてみたら「10年前はあったんだけどね」とのお返事。
10年もサイトを更新してないんかいと苦笑いしつつ、これもまたゲーム旅の醍醐味ということで納得することにした。すべてが思惑通りにいかない方が、結局面白いのだ。

 

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著者紹介
さらだばーむ

目も当てられないほど下手なくせにずっとゲーム好き。
休日になるとブラブラと放浪する癖があり、その道すがらゲームに出会うと異様に興奮する。
本業は、吹けば飛ぶよな枯れすすき編集者、時々ライター。

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